詐欺罪・恐喝罪

ここでは、詐欺及び恐喝の罪に関して、詐欺罪、2項詐欺罪(詐欺利得罪)、電子計算機使用詐欺罪、準詐欺罪、恐喝罪、2項恐喝罪(恐喝利得罪)などについて扱います。窃盗罪と共通する、財物性や不法領得の意思などについては窃盗の講座を、また財産上の利益に関しては、強盗罪の講座(強盗利得罪)なども参照してください。

この講座は、刑法 (各論)の学科の一部です。前回の講座は強盗罪、次回の講座は横領罪です。

詐欺罪

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総説

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詐欺の罪は、人を欺いて財物を交付させ、または財産上不法の利益を得、もしくは他人に得させる行為及びこれに準ずる行為を内容とする犯罪です。詐欺の罪には、詐欺罪(246条1項)、詐欺利得罪(246条2項)、準詐欺罪(248条)、電式計算機使用詐欺罪(246条の2)、これらの罪の未遂罪(250条)があります。

これら詐欺の罪の保護法益は、個人の個別財産であるとするのが通説です。もっとも、2項詐欺(詐欺利得罪)については、個別財産だけでなく全体財産も含まれるとの見解もあります。

また、国家や地方公共団体等の公共的利益に対する詐欺的行為が詐欺罪に当たるか否かについては、肯定・否定の両説が主張されています。肯定説は、公共的法益を侵害する場合でも、同時に詐欺罪の保護法益である財産的利益を侵害するものである以上、詐欺罪の成立を認めるべきといいます。判例(最決昭和51年4月1日刑集30巻3号425頁)は、県知事を欺罔して未開墾地の売り渡しを受けた事例について、詐欺罪の成立を肯定しており、学説上も肯定説が通説となっています。これに対して否定説は、詐欺罪は個人法益としての財産的法益に対する罪であり、公共的法益に向けられた詐欺的行為は、詐欺罪の定型性を欠くと言います。

なお、判例や裁判例では生活保護費の不正受給(東京高判昭和49年12月3日高刑集27巻7号687頁)や健康保険被保険者証書、簡易生命保険証書(最決平成12年3月27日刑集54巻3号402頁)などについて、詐欺罪の成立を肯定する一方で、脱税(東京地判昭和61年3月19日刑月18巻3号180頁)、詐欺的方法による旅券取得(最判昭和27年12月25日刑集6巻12号1387頁)、印鑑証明書の取得などについて詐欺罪の成立を否定しています。これは、脱税については租税逋脱罪が特別法として定められており、また各種証明書の不正受給は、財物性や財産上の利益の欠如などの理由によって詐欺罪の成立が否定されるものと考えられます。

客体

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1項詐欺

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1項詐欺罪の客体は、他人が占有する他人の財物です。財物や占有などについては、窃盗罪の講座を参照してください。

なお、ここで言う財物には、動産のほか不動産も含まれると解されます。判例(大判明治36年6月1日刑録9輯930頁など)においても不動産が客体として認められています。また不動産については移動しないという特性から、登記名義の取得による法律的支配によって占有を肯定することができ、当該不動産の処分可能性を取得したといえるため、登記移転により詐欺罪は既遂となると考えられます(大判大正11年12月15日刑集1巻763頁)。一方で、欺罔により不動産の事実的支配を取得するにとどまる場合には、事実的支配により利益を得たとして、2項詐欺が成立すると考えられます。

なお、預金通帳につき、判例(最決平成14年10月21日刑集56巻8号670頁)は、他人になりすまして預金口座を開設し、銀行窓口の係員から預金通帳の交付を受けた行為につき、預金通帳はそれ自体として所有権の対象となり得るものであるにとどまらず、財産的価値を有するものと認められるとして、詐欺罪に該当すると判示しました。

2項詐欺

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従来の通説・判例は、財産上の利益を財物以外の財産的利益の一切をいうものと解してきました。もっとも、詐欺罪が移転罪であることから、移転性のある利益に限られるとの見解も主張されます。これに関してや、また不法な利益についてどのように考えられるかは、強盗利得罪と同様に考えられます。これら財産上の利益に関しては強盗の講座も参照してください。

財物請求権の取得の場合について、財物の詐取を目的として欺罔行為を行い、財物の請求権を取得した場合には1項詐欺罪の未遂とする見解も主張されます。これに対して、詐欺賭博の事案につき、客に債務を負担させた段階で2項詐欺の成立を認めた判例(最決昭和43年10月24日刑集22巻10号946頁)があります。

また、債務履行を一時免れた場合について、このような期間の猶予も財産上の利益となるものとして、2項詐欺が成立し得ると解されていますが(最決昭和34年3月12日刑集13巻3号298頁など)、例えば「必ず返す」などと嘘をついて1週間の猶予を得たような場合にまで、必ず詐欺罪の成立が認められるものかは問題となります。

判例(最判昭和30年4月8日刑集9巻4号827頁)では、欺罔手段によって一時債権者の督促を免れたからと言ってそれだけでは財産上の利益を得たものとは言えず、債権者が欺罔されなかったならば債務の履行やこれに代わる担保の提供など何らかの具体的措置が行われざるを得なかったであろうような特段の状況が存在した場合に、財産上の利益を得たものということができるとしています。また別の判例(最判平成13年7月19日刑集55巻5号371頁)では、請負人が本来受領する権利を有する請負代金を欺罔手段を用いて不当に早く受領した場合には、その代金全額について刑法246条1項の詐欺罪が成立することがあるが、本来受領する権利を有する請負代金を不当に早く受領したことをもって詐欺罪が成立するというためには、欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう請負代金の支払とは社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の期間支払時期を早めたものであることを要すると解するのが相当であると判示しています。学説においても、財産上の利益を得たというためには、財物の移転と同視し得るだけの具体性・確実性が必要であり、一時猶予の場合において2項詐欺の成立を肯定するためには、それによって債権の財産的価値が減少したことが必要である、などといわれています。

欺罔行為

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欺罔行為とは、人を欺いて財物を交付させることをいいます。詐欺罪の成立には、欺罔行為が行われ、それに基づき相手方が錯誤に陥り、錯誤に基づいて財産を処分することによって、財物が交付されて財物の移転が行われることが必要となります。

そこで、機械を騙す行為については、詐欺罪は人の錯誤を利用する犯罪であるから、機械を相手とする詐欺的行為は詐欺罪を構成しないものと解されます。

また、不作為による詐欺(欺罔行為)も成立し得ます。もっともその場合、真実を告げるという作為義務(告知義務)が認められることが必要となります。このような作為義務としては、例えば生命保険契約の際の告知義務や、取引の際の準禁治産者(現在の被保佐人に相当)の告知義務などが判例上認められています。このような作為義務が問題となる場合として、釣銭詐欺の場合があります。また作為義務の問題については、刑法総論の不作為犯の講座も参照してください。

このような不作為による詐欺と区別されるものとして、挙動による欺罔があります。これは作為による欺罔であって、告知義務(保証人的地位)を問題としない場合とされていますが、告知義務が当然認められる場合のことであるとも考えられます。例えば、無銭飲食事例や、取込み詐欺事例がこれに当たります。例えば飲食店で注文をするという行為には代金を支払うということが当然の前提になっており、支払意思がないことについて黙って注文するいることは、現実には存在しない支払意思を告知していることと同視できます。このような場合には挙動による欺罔として、欺罔行為の存在が認められることとなります。

欺罔行為は、一般人をして財物または財産上の利益を処分せしめるような錯誤に陥れる行為、すなわち処分に向けられた行為であることを要します。被害者の不安や無知を利用するのも詐欺行為となり、被害者側に過失があっても、欺く手段が人を錯誤に陥れる性質を持つ限り詐欺行為となります。ただし、多少の誇張や事実の湾曲があっても、取引上一般に用いられる駆け引きの範囲内において通常相手方が錯誤に陥ることがない程度のものであれば、その行為は詐欺の欺罔行為とは言えません(最決平成4年2月18日刑集46巻2号1頁)。

また、欺罔行為による相手方の錯誤に陥れ、その錯誤に基づいて財産上の処分行為がなされることが必要であるため、欺罔行為の相手方、すなわち被詐欺者は、事実上または法律上被害財産の処分をなしうる権限ないし地位を有する、処分権者でなければなりません。これに関しては、後述の三角詐欺・訴訟詐欺において問題となります。

もっとも、相手方の錯誤がいかなる点において生じたかについては重要ではありません。相手方が真実を知ったならば、財物の交付をしなかったであろうというべき重要な事項につき偽ることで、欺罔行為と言い得ることとなります。

(参照 w:無銭飲食

交付行為

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詐欺罪の成立には、相手方が欺罔行為により錯誤に陥り、それに基づき交付行為をしなければなりません。ここで、交付と言い得るためには、交付の意思に基づく交付の事実が必要となります。そのため交付意思を欠く幼児や高度の精神障害者を欺いて財物を奪う行為は、詐欺罪ではなく窃盗罪となります。

このように、交付行為は物については詐欺罪と窃盗罪との限界を画し、財産上の利益については詐欺罪と不可罰な利益窃盗との限界を画するという意義を持つものです。

交付の相手方は通常、欺罔行為の行為者ですが、行為者以外の第三者に財物を交付させても本罪の占有の移転となります。もっとも、詐欺罪の成立には不法領得の意思が必要であるため、第三者が誰であっても詐欺罪の成立が認められるというわけではありません。そこで、相手方となる第三者の範囲は、欺罔行為者の道具として行動するものや、行為者の代理人としてその利益のために財物を受領するものなど、行為者との間に何らかの特別な事情が存在するものに限られます(大判大正5年9月28日刑録22輯1467頁)。そうでなければ不法領得の意思が認めらません。

また、交付行為により物・財産上の利益が直接移転することが必要であり(直接性の要件と言います)、占有取得のため相手方がさらに占有移転行為を行う必要があってはなりません。このような場合には占有の移転はなく、占有の弛緩が生じたにすぎないため、占有者の意思に反する占有移転として本罪ではなく窃盗罪が成立することとなります。例えば時計店で、購入を検討しているかのように見せかけて店員にケースに入っている腕時計を取り出させ、自分の腕につけたという場合でも、未だその腕時計の占有は店側にあり、あくまでその占有は弛緩しているに過ぎません。そこで、その腕時計をつけたまま突然店から逃げ出した場合には、詐欺罪ではなく窃盗罪となります。

移転する物・利益の存在に錯誤がある場合について、意思に基づく交付があったといえるかにつき、交付する物・利益の認識を必要とする見解(意識的交付行為説)と不要とする見解(無意識的交付行為説)の双方が主張されます。もっとも、無意識的交付行為説においても意思に基づく占有移転ではある以上、何らかの移転意思を必要とし、また意識的交付行為説においても、交付意思の内容は緩和されるのであり、その対立は表面的なものであるとも言われます。

財産的損害

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物や利益が交付行為により移転することで、詐欺罪は既遂となります。そして、交付により移転した物・利益の喪失自体が詐欺罪における法益侵害であると捉えられます。ここで、価格相当物品が反対給付として交付されていたような場合にも、直ちに詐欺罪の成立を肯定すべきかが問題となり、以下のような各種の見解が主張されています。

  • 錯誤がなければ生じなかったであろう移転意思の有効性を否定する立場から、詐欺を肯定する見解。判例・多数説の立場です。
  • 実質的な法益侵害性を要求する見解。

詐欺を肯定する見解に対しては、例えば年齢を偽って煙草を購入するような行為も詐欺となるというのは疑問であるとの主張もなされています。裁判例としては、医師と偽って患者を診察し、薬を販売した行為について、売薬の買い取りによって相手方に財産上不正の侵害が生じておらず、被告人に不法の利益を享受したと言うこともできないとして詐欺罪を否定したもの(大決昭和3年12月21日刑集7巻772頁)や、医師の処方箋を偽造して要処方薬を購入した場合に、詐欺罪は成立しないとした裁判例(東京地判昭和37年11月29日判タ140号117頁)があります。この一方で最近の判例(最決平成16年7月7日刑集58巻5号309頁)では、被告人が住宅金融債権管理機構の担当者に、真の事情を秘して名目上の買主となるものと共謀の上、住管機構の根抵当権等が設定された不動産を売却するという虚偽の事実を示し、当該各不動産の時価評価などに基づき住管機構の是認した金額と引き換えに根抵当権等を放棄させ、その抹消登記を得たという事例につき、本件各根抵当権等を放棄する対価として支払われた金員が時価評価などに基づき住管機構において相当と認めた金額であり、かつ、これで債務の一部弁済を受けて本件各根抵当権等を放棄すること自体については住管機構に錯誤がなかったとしても、被告人に欺かれて本件各不動産が第三者に正規に売却されるものと誤信しなければ、住管機構が本件各根抵当権等の放棄に応ずることはなかったというべきであるとして、2項詐欺罪の成立を認めています。

詐欺の個別の類型

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証明書等の不正取得

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虚偽の申し立てにより証明書等の交付を受ける行為について、詐欺罪が成立するか問題となります。

判例・裁判例では、建物所有証明書や印鑑証明書、旅券については詐欺罪の成立が否定され、一方、家庭用主食購入通帳、硝子配給割当証明書、毛製品輸出証明書、健康保険被保険者証(これについては否定した裁判例も存在します)、簡易生命保険証書、預金通帳においては詐欺罪の成立が肯定されており、事案により分かれています。

詐欺罪の成立を否定する見解の根拠としては、詐欺としての定型性を欠くとするもの、財物性を欠くとするもの、免状等不実記載罪(157条2項)との均衡上詐欺罪の成立を否定するものなどがあります。なお、旅券の不正取得に関する判例(最判昭和27年12月25日、刑集6巻12号1387頁)では、詐欺罪の成立が否定される根拠として、免状、観察、旅券については、不実記載罪の規定が存在するが、これは証明書の取得をも当然に含む規定であり、しかもその法定刑は詐欺罪よりも軽いため、それとの均衡上詐欺罪の成立は否定されるべきであるということを挙げています。

これに対して、財産的給付を取得しうる地位を与える証明書については、財産上の利益が化体された物の不正取得であるから、これによる財産権の侵害も肯定することができ、詐欺罪が成立するものと考えられます。

キセル乗車

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キセル乗車についてどのように考えるかにつき、詐欺罪(2項詐欺罪)の成否やその内容に関して学説・裁判例は分かれています。

  • 詐欺罪を肯定する見解 -- 以下の二説があります。
    • 乗車駅基準説 -- 乗車駅において詐欺罪の成立を肯定する見解です。キセル乗車目的で購入した乗車券は無効(と同様)であり、目的を秘して改札口を通過する行為は欺罔行為となる、欺罔行為に基づき輸送という役務を取得したため2項詐欺が成立するといいます。これに対しては、乗車券が無効とは言えない、輸送という役務を交付するのが改札口係員とするのは無理があり、三角詐欺ともし難いなどと批判されます。
    • 下車駅基準説 -- 清算すべき未払い運賃があるのにそれを秘して改札口を通る行為を欺罔行為とし、係員が未払い運賃の請求をせずに改札口を通過させることによりその支払いを事実上免れさせることを交付行為と解する見解です。
  • 詐欺罪を否定する見解 -- 購入した乗車券は有効であり、乗り越しを申告する義務はない以上、乗車駅では欺罔行為の要件に欠ける、また下車駅では、その改札口係員は、請求すべき未払い運賃があることを知らないから、交付行為の要件に欠けるとし言います。これに対しては、挙動による欺罔に当たるのではないか、また交付行為の要件の理解が厳格に過ぎ、債務残額を欺罔して一部支払いを免れるような場合も不可罰になってしまうのではないかなどと批判されます。

(参照 w:不正乗車

三角詐欺

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詐欺は、被欺罔者が被害者であることが通常であるところ、被欺罔者と被害者とが異なっている場合を三角詐欺と呼びます。

なお、被欺罔者と被害者とは異なるとしても、被欺罔者と交付行為者とは同一である必要があります。そうでなければ、錯誤に基づく交付行為と認めることができません。

このような場合にどのような要件の下で詐欺の成立を認めることができるか、詐欺罪と窃盗罪の間接正犯がどのように区別されるか、問題となります。

判例(最判昭和45年3月26日刑集24巻3号55頁)は、被欺罔者と被害者が異なる場合、被欺罔者において被害者のためその財産を処分し得る権能または地位のあることが必要であるとしており、学説上もこのように解されています。

訴訟詐欺

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訴訟詐欺とは、裁判所を欺いて勝訴判決を得、強制執行により敗訴者から物を取得するようなものを言います。

このような場合に詐欺罪が成立するかについては、肯定・否定の両説が主張されています。

  • 否定説 -- 民事訴訟では形式的真実主義が妥当し、裁判所は虚偽だとわかっていても勝訴判決を下さざるを得ない場合があるため、欺罔行為・錯誤の要件が満たされるか疑問がある。また敗訴者がやむを得ず物を提出することが、意思に基づく交付と言えるかについても問題がある。
  • 肯定説 -- 裁判所が欺罔される場合があることは否定できず、また、物を交付するのは、敗訴者ではなく被欺罔者である裁判所であるから、交付行為の要件も充たされる。

また、判例(大判明治44年11月27日、刑録17輯2041頁、大判大正5年5月2日、刑録22輯681頁など)は、詐欺罪の成立を肯定しています。

なお以上に対して、被害者がその結果を甘受すべき理由がない場合には、交付行為の存在及び詐欺罪の成立は否定されます。例えば、被害者が手続きから排除されているときには、そのような理由から詐欺罪の成立は否定されることになります。被害者の氏名を冒用して内容虚偽の起訴前の和解を申し立て、簡易裁判所裁判官に和解調書を作成させ、それを登記官吏に提出して土地の移転登記をさせた事例(最決昭和42年12月21日刑集21巻10号1453頁)や、すでに効力を失っている和解調書を裁判所書記官補に示して執行文付与を受け、執行吏に提出して家屋に対して強制執行させた事例(前出最判昭和45年3月26日)など。

クレジットカードの不正使用

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自己名義のクレジットカードを、カード発行会社に対し代金相当額を支払う意思・能力なしに、カード会社と加盟店契約を結んだ店で使用し、物・サービスを購入した場合に、詐欺罪の成否が問題となります。この場合、加盟店はカード会社から代金の立替払を受け、カード会社からカード会員に代金の請求がなされるのであるから、経済的損失をこうむるのは加盟店ではなくカード会社であり、ここにクレジットカードの不正使用の特殊性があります。

学説では、詐欺罪の成立につき否定説・肯定説の双方が主張されています。

  • 否定説 -- 加盟店に対する欺罔行為や、加盟店の錯誤が存在しない。
  • 肯定説 -- 肯定説の根拠としては、以下のような見解があります。もっとも詐欺の法律構成や既遂時期は見解により異なります。
    • 欺罔により加盟店に商品を交付させたとして、加盟店を被欺罔者、かつ被害者として詐欺罪の成立を認める見解。裁判例(福岡高判昭和56年9月21日刑月13巻8=9号527頁、東京高判昭和59年11月19日判タ544号251頁など)の立場です。これに対しては、加盟店としてはカード会社から代金の支払いを受けることができる地位を取得したことで取引目的を達成しており、被害者と見ることはできないと批判されます。
    • 加盟店を介してカード会社を欺罔し、立替払をさせることで利得したとして、2項詐欺の成立を認める見解。これに対しては、欺罔を知ってもカード会社は立替支払いをしなければならず、錯誤に基づく処分行為と言えないと批判されます。
    • 加盟店を被欺罔者かつ交付行為者とし、カード会社を被害者とする三角詐欺として、詐欺罪の成立を肯定する見解。

(参照 w:詐欺罪

電子計算機使用詐欺罪

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電子計算機使用詐欺罪は246条の2において定められており、「前条に規定するもののほか」とあるように、詐欺罪の補充規定であり、詐欺罪が成立するときには本罪の適用はありません。

本罪は、不実の電磁的記録であって、財産権の得喪・変更に係る電磁的記録を作成・供用することによる不法な利得行為について成立します。財産権の得喪・変更に係る電磁的記録とは、財産権の得喪や変更の事実を記録した電磁的記録で、その作出・更新により、直接、事実上当該財産権の得喪・変更が生じることになるものを言います。銀行の顧客元帳ファイルの預金残高記録、プリペイドカードの残度数・残額の記録などがこれに該当しますが、キャッシュカードやクレジットカードの磁気記録や不動産登記ファイルなどは、一定の事実を証明するための記録に過ぎず、これには該当しません。

供用による不法利得行為とは、虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供することによる不法利得行為であり、偽造したプリペイドカードを使用して有償のサービスを取得するような場合がこれにあたります。

準詐欺罪

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準詐欺罪は、248条において定められており、未成年者の知慮浅薄または人の心神耗弱に乗じてその財物を交付させ、または財産上不法の利益を得、もしくは他人にこれを得させた場合に成立します。

欺罔行為を用いて、錯誤に基づく交付行為により物・利益を取得した場合には詐欺罪が成立するため、本罪が成立するのは欺罔行為に至らない誘惑などの手段が用いられた場合となります。また、意思能力を欠く幼児や心神喪失者から財物を取得した場合には、交付行為があったとは認められないため、本罪ではなく窃盗罪となります。

なお未成年者とは18歳未満の者を言い、知慮浅薄とは知識に乏しく思慮が足りないことを言います。

(参照 w:準詐欺罪

恐喝罪

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総説

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恐喝の罪は、人を畏怖させて財物を交付させること、または財産上不法の利益を得、もしくは他人にこれを得させることを内容とする犯罪です。刑法では、恐喝罪(249条1項)、恐喝利得罪(249条2項)、これらの未遂罪(250条)が規定されています。

なお、被恐喝者と財物の交付者とが同一でない場合、詐欺の罪における被害者と異なり、恐喝行為の相手方となる被恐喝者も被害者となります。

本罪の保護法益については、恐喝は自由に対する侵害を伴うものであって、財産のほかに自由も含むとの見解も主張されています。もっとも、そのような見解もその本質は財産罪であるしています。

本罪と強盗罪とは、暴行・脅迫の程度が相手方の反抗を抑圧する程度に達するものであるか否かによって、区別されます。

恐喝罪の客体は、他人の占有する他人の財物です。ここで言う財物には不動産も含まれます。その他については、窃盗罪と同様に解されます。また、恐喝利得罪の客体は、財産上の利益です。これについては、強盗利得罪・詐欺利得罪などと同様に解されます。

恐喝

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恐喝とは、暴行または脅迫により被害者を畏怖させることを言い、それは財物または財産上の利益の交付に向けられたものでなければなりません。もっとも、交付罪である恐喝罪の成立には、交付意思に基づく交付行為が必要となるため、その畏怖は、被害者の反抗を抑圧する程度に至らないものであることが必要となります。

ここでは、一旦暴行が加えられたのち、さらに暴行が加えられるかもしれないとの脅迫的要素が被害者を畏怖させる実質をなすと考えられます(最決昭和33年3月6日刑集12巻3号452頁)。

告知する加害が虚構であっても、相手方を畏怖させるものであれば恐喝となります。また、告知する害悪の内容は、判例によれば、犯罪を構成するものあるいは違法なものであることを要しないとされています。例えば、捜査機関に犯罪事実を告発すると脅して、口止め料を出させる行為につき、本罪が成立するとした判例(最判昭和29年4月6日、刑集8巻4号407頁)があります。

告知される加害の対象は、脅迫罪・強要罪と異なり、友人など第三者も含まれます。

交付

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恐喝罪の成立には、畏怖した者の意思に基づく交付行為(処分行為)により、物・財産上の利益が移転することが必要です。また、判例によれば、畏怖して黙認しているのに乗じて恐喝者が財物を奪取した場合でも恐喝罪となり(最判昭和24年1月11日刑集3巻1号1頁)、被恐喝者が畏怖により飲食代金の請求を断念した場合、少なくとも黙示的な支払い猶予の処分行為が存在するから、恐喝罪は成立するとしたものもあります(最決昭和43年12月11日刑集22巻13号1469頁)。

交付行為により、物・財産上の利益が移転した場合に恐喝罪は既遂となります。交付により移転した個別の物・利益の喪失自体が恐喝による法益の侵害です。

(参照 w:恐喝

権利行使と詐欺・恐喝

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ここでは、詐欺・恐喝に共通する問題として、権利実現のために詐欺や恐喝が用いられる場合について扱います。

問題となる典型的な事例としては、他人が不法に占有する自己の所有物を、欺罔や恐喝により取り戻す場合と、金銭債権を有する者が、欺罔・恐喝を用いて弁済を受ける場合が挙げられる。このうち、ここでは後者を扱います。前者については、窃盗と同様に考えられるため、窃盗の講座や、また刑法総論の自力救済を扱う講座を参照してください。

かつての判例は、恐喝・欺罔を用いて財物・財産上の利益の交付を受けた場合、正当な権利の範囲内であれば不当な利得がないため、恐喝罪や詐欺罪は成立しないとし、ただ、権利実行の意思がなくそれに仮託した要求をする場合や、財物等の領得の原因が正当に有する原因とは異なる場合には、恐喝罪・詐欺罪が成立するとしていました。また、権利の範囲を超える場合には、物・利益が法律上可分であればその超えた部分についてのみ恐喝罪・詐欺罪が成立し、不可分であれば、全部について恐喝罪・詐欺罪が成立するとしていました(大連判大正2年12月23日刑録19輯1502頁)。

そして、交付を受けたものが権利の範囲内のものであっても、恐喝の手段が正当な範囲を超えた場合には、脅迫罪が成立するとしていました(大判昭和5年5月26日刑集9巻342頁)。

しかし、その後の判例(最判昭和30年10月14日刑集9巻11号2173頁)では、3万円の債権を取り立てる際に、恐喝により6万円交付させた事案につき、権利の実行はその権利の範囲内でありかつその方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超えない限り何ら違法の問題を生じないが、その程度範囲を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあると判示し、交付させた全額について恐喝罪の成立を肯定しています。ここでは、社会通念上取り立ての手段として許容される範囲内であれば不可罰であるが、それを越えれば、恐喝罪ないし詐欺罪が成立するものと判断しており、かつてのように恐喝罪は成立しないが脅迫罪の成立は肯定されるという領域の存在は否定されたものと考えられます。

これに対し学説では、判例と同様に解する見解のほか、権利の範囲内にとどまる限り、債務者に実質的な法益侵害の発生はないから、手段に行き過ぎがあれば暴行罪・脅迫罪が成立し得るにすぎないとする見解も主張されています。また判例と同様に解しつつも、金銭を交付させる場合については他の場合と異なり、保護に値する物の侵害がないとして恐喝罪の成立を否定する見解も主張されます。

また、内容が特定しないなど、存在が明確でない権利を行使する場合には、相手方に物や財産上の利益の交付を拒絶する正当な理由が認められる合理的な可能性がある限り、相手方の持つ物・財産上の利益はなお保護に値し、いずれの見解によっても恐喝罪は成立し得るものと考えられます。