強盗罪
ここでは、強盗の罪に関して、1項強盗罪、2項強盗罪(強盗利得罪・利益強盗罪)、事後強盗罪、昏睡強盗罪、強盗致死傷罪、強盗強姦罪、強盗予備罪などについて扱います。窃盗罪と共通する、財物性や不法領得の意思などについては、前回の窃盗の講座を参照してください。
強盗罪
編集総説
編集強盗罪とは、暴行もしくは脅迫をもって他人の財物を強取すること、または財産上不法の利益を得、もしくは他人にこれを得させること、及びこれらに準じた行為を内容とする犯罪です。刑法では、強盗罪、強盗利得罪、事後強盗罪、昏睡強盗罪、強盗致死傷罪、強盗強姦罪・同致死罪、及びそれらの未遂罪、強盗予備罪が定められています。またこのうち、事後強盗罪と昏睡強盗罪をあわせて準強盗罪ともいいます。
強盗の罪と窃盗の罪とは、他人の意思に反してその占有を侵害し、領得する点で共通します。そこで、不法領得の意思が問題となることや、強盗の罪の保護法益、客体となる財物とは何であるかについて、窃盗と同様の議論があります。
これに対して、窃盗罪は財物罪であるのに対し強盗の罪は財産上の利益をも客体とします。また暴行・脅迫を手段とする点でも異なります。客体に不動産が含まれるかについては、1項強盗の客体には含まれないとするのが多数です。もっともその場合でも、2項強盗の客体である財産上の利益には該当し、登記名義を取得する場合や、事実上の占有を取得する場合には2項強盗が成立します。一方不動産についても1項強盗の客体に含まれるとし、登記名義が取得された場合には1項強盗が成立すると考える見解も主張されています。
ここでは、強盗罪において、窃盗罪と異なり問題となる事項について学びます。
暴行・脅迫
編集暴行・脅迫の程度
編集暴行・脅迫は、最狭義の暴行・脅迫を意味し、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかという客観的基準によって決せられるのであって、具体的事案の被害者の主観を基準として、その被害者の反抗を抑圧する程度であったかどうかということによって決せられるものではないとされています(最判昭和24年2月8日刑集3巻2号75頁)。この程度に達しない場合、強盗罪ではなく恐喝罪(など)が問題となります。
そして、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度とは、実際に抵抗してきた場合にそれを抑圧するに足りる暴行・脅迫ばかりでなく、予想される反抗を不可能もしくは著しく困難にする程度のものをも含むとされています。これに関して対し学説では、相手方の反抗の抑圧につき、以下のように様々な見解が主張されています。特に、被害者が特に臆病であるなどといった事情についてどう考えるかと、客観的に強盗といえるような行為が行われたにもかかわらず被害者の反抗が抑圧されなかった場合にどう考えるかにつき、見解が分かれています。なお、客観的に強盗の手段といえる場合に強盗罪の成立を認めるのを客観説、主観的に強盗の手段といえる(反抗の抑圧があったといえる)場合に強盗罪の成立を認めるのを主観説と呼びますが、純粋にこれらを貫く単純な主張は余りなされていません。
- 客観的に強盗の手段と言える場合には強盗となり、また行為者が、被害者が特に臆病であることなどを知って暴行・脅迫を加えた場合にも、強盗となるという見解。
- 被害者の反抗が実際に抑圧されなかった場合には、強盗未遂と恐喝既遂の観念的競合となるとし、一方被害者が特に臆病であることを知って暴行・脅迫を加えた場合には、実際に反抗が抑圧されている以上強盗となるという見解。
- 客観的に強盗の手段といえることが必要であり、かつ被害者の反抗が抑圧されたことを必要とする見解。実際に抑圧されない場合には強盗未遂と恐喝既遂の観念的競合となるという見解です。
また、客観的に強盗の手段と言えるかどうかは、被害者側の事情、行為の状況、暴行・脅迫自体の行為態様や行為者側の事情を総合的に考慮してなされます。
暴行が専ら財物奪取の手段として加えられた場合(典型的な例としては、ひったくりがあります)についても問題となり、以下の両説が主張されています。
- 人の反抗を抑圧するに足りる暴行があれば、強盗罪の成立が認められるという見解。
- 反抗の抑圧に向けられたものでない以上、強盗は成立しないという見解。
この点につき判例(最決昭和45年12月22日刑集24巻13号1882頁)は、被告人がひったくって窃取する目的で自動車の窓からハンドバックの下げ紐を掴んで引っ張ったのに対し、被害者が手を放さなかったので、さらに自動車を進行させたため被害者を負傷させた事案につき、原審が、「被害者の女性がハンドバックを手放さなければ、自動車に引きずられたり、転倒したりなどして、その生命、身体に重大な危険をもたらすおそれのある暴行であるから相手方女性の抵抗を抑圧するに足るものであった」と判示したものを、正当として、強盗の成立を認めています。
暴行・脅迫の相手方
編集暴行・脅迫の相手方については、以下の説があります。
- 財物の強取について障害となる者であれば足り、所有者や占有者である必要はないとする見解。通説的見解です。
- より限定的に、占有補助者や財物の保持に協力する立場にあるものに限るべきであるとする見解。
強取
編集強取とは、暴行・脅迫をもって相手方の反抗を抑圧し、その結果として財物を自己または第三者の占有に移す意思を言います。強取と言い得るためには、暴行・脅迫と財物奪取の間に因果関係がなければなりません。これに関して、判例(最判昭和24年2月8日刑集3巻2号75頁)は、暴行・脅迫を加えたが、憐れみなどの動機で相手方が任意で財物を交付した事案について、強盗既遂を認めていますが、このような場合には強盗未遂にとどまるというのが通説となっています。
反抗が抑圧された被害者から奪い取る場合のほか、そのような被害者が差出す物を受け取る場合、逃走した被害者が放置した物をとる場合、反抗が抑圧された被害者が気付かないうちに物をとる場合についても、強取とされます。これに対し、被害者が逃走中に落とした物をとる場合については、反抗を抑圧した結果としての物の取得はなく、強盗未遂罪などが成立するにすぎません。
財物奪取後の暴行・脅迫
編集財物を奪取した後、その占有を確保するために暴行・脅迫を用いた場合、暴行・脅迫は財物奪取の手段ではなく、1項強盗の財物の強取を肯定することはできません(最決昭和61年11月18日刑集40巻7号523頁)。もっともこの場合、返還請求または代金支払いを免れたことにより、2項強盗が成立する余地はあります(これについては、強盗利得罪のところでも扱います)。
これに対して、強盗の意図で財物を奪取し、次いで被害者に暴行を加えてその占有を確保した場合については、強盗の成立を認めた判例(最判昭和24年2月15日刑集3巻2号164頁)があり、これを支持する学説も主張されますが、窃盗が既遂となった後は1項の強盗は成立せず、2項強盗ないし事後強盗罪の成立を問題とすべきとの見解も主張されています。
一般的に、窃盗が既遂になる以前であれば、暴行・脅迫が行われた場合にはこれは強取と認められ、1項強盗となります。このような、当初は窃盗の意思であったものが途中で強盗と変わったものを、居直り強盗と呼びます。
暴行・脅迫後の領得意思
編集強盗以外の目的で暴行・脅迫を行って相手方の反抗を抑圧した後に、財物奪取の意思を生じ、反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合について、強盗罪が成立するかが問題となります。
これについて、新たな暴行・脅迫が行われることが必要か否か、また必要とするとどの程度の暴行・脅迫が必要かなどなどで、以下のような見解が主張されます。
- 自己が作出した被害者の畏怖状態を利用することは、暴行・脅迫を用いることと同視できるとする見解(不要説)。かつての判例(最判昭和24年12月24日刑集3巻12号2114頁など)の立場です。
- 強盗の意思に基づく新たな暴行・脅迫が行われることを必要とする見解(必要説)。通説であり、また近時の下級審判決の立場(高松高判昭和34年2月11日高刑集12巻1号18頁、東京高判昭和48年3月26日高刑集26巻1号85頁、大阪高判平成元年3月3日判タ712号248頁)です。また、死亡させた場合については、その後領得意思が生じた場合につき窃盗罪とした判例(最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁)があります。この見解の中では、以下のような内容が主張されています。
- 新たな暴行・脅迫は反抗抑圧状態を維持・継続させるもので足りるとする見解。
- 新たな暴行・脅迫は単なる反抗抑圧状態の不解消では足りず、反抗抑圧状態の惹起が必要であり、作為または不作為によるそのような暴行・脅迫が認められる必要があるとする見解。
(参照 w:強盗罪)
強盗利得罪
編集財産上の利益
編集刑法236条2項は、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させたことを要件としています。ここで不法の利益とは、財産上の利益を不法に取得し、または他人に取得させるという、方法が不法であることを意味します。
また、財産上の利益は、債権など有体物以外の財産的権利・利益を意味します。もっとも、強盗罪は移転罪であるから、移転性のある利益である必要があり、移転可能性に疑問のある情報やサービスなどを本罪の客体に含め得るかは問題とされる。これらについては、移転を観念し得る対価を支払うべき有償のサービスなどに限り客体となるとの見解などが主張されています。
また、不法な利益、すなわち利益自体が不法なものである場合、本罪の対象となり得るかが問題となる。これについては、窃盗罪において扱った保護法益についての理解にもよることとなります。判例(最決昭和61年11月18日刑集40巻7号523頁)は、覚せい剤の返還請求権または代金請求権について、強盗罪の客体となることを肯定しています。もっともこれに対して、売春代金について否定した裁判例(広島地判昭和43年12月24日判時548号105頁)もあり、このような、およそ明らかに民事法上保護されない利益については、財産上の利益として認めない見解も主張されています。
利益の移転
編集財産上の利益の移転があったというためには、被害者による、債務免除の意思表示等の、処分行為が必要かが問題となります。
かつての判例(大判明治43年6月17日刑録16輯1210頁)は、財産上の処分行為を強制することが必要であるとしていましたが、その後の判例では、明示的に明治43年の判例を変更しており(最判昭和32年9月13日刑集11巻9号2263頁)、現在では不要説が採られています。また、学説上も、強盗罪が成立するには被害者の反抗の抑圧が必要であり、意思が抑圧された被害者に処分行為をなす余地はないともいわれており、処分行為不要説が通説となっています。
このように、2項強盗の成立には被害者の処分行為は不要とされますが、一方で処罰範囲が不当に広がらないためにも、財産上の利益の移転は、1項強盗と同視し得る程度に、具体性および確実性があることが認められなければならないとされています。これが問題となる典型例としては以下のものがあります。
- 債権者を殺害する場合
- 下級審の裁判例(大阪高判昭和59年11月28日高刑集37巻3号438頁)では、債権者を殺害した結果、債権者側による速やかな債権の行使を相当期間不可能ならしめた場合においても、不法利得を肯定することができるとしています。しかしこれに対しては、債権の存在を示す記録がないなどにより、債権の行使が事実上不可能または極めて困難になり、債務の支払いを免脱した状態になることが必要との見解も主張されます。
- 相続人が他の相続人や被相続人を殺害する場合
- 下級審の裁判例(東京高判平成元年2月27日高刑集42巻1号87頁)では、2項強盗の対象となる財産上の利益は、被害者が反抗を抑圧されていない状態で任意に処分できるものであることを要し、相続の開始による財産の承継は任意の処分の観念を入れる余地がないから、2項強盗の対象となる財産上の利益に当たらないとしています。これに対しては、任意性が問題なのではなく、単に相続人としての地位を取得するにすぎない場合には、財産上の利益の移転が現実のものとは言えないという点で、強盗罪を構成しないとする見解も多数主張されています。
財物取得後の暴行・脅迫
編集財物を詐取した後、その代金を暴行・脅迫により免脱した場合について、判例(最決昭和61年11月18日刑集40巻7号23頁)は、1項詐欺と2項強盗罪が成立し、両罪の包括一罪として重い後者の刑で処断すべきものとしています。学説上も、物の販売により生じた代金債権は、物とは別個の保護に値するが、結局は同一の財産的利益の保護であり包括一罪とするのが妥当として、これを肯定する見解が多数となっています。
財物を窃取した後、被害者の返還請求を暴行・脅迫により免脱した場合については詐取の場合と類似しますが、事後強盗罪との関係も問題となる点で、詐取の場合とは異なる問題もあります。判例(前出最決昭和61年11月18日)は、この場合においても窃盗罪と2項強盗罪が成立し、包括一罪となるとしています。これに対して、盗品に対する返還請求権は窃盗により侵害された所有権の内容に過ぎず、窃盗罪により処罰が行われる場合にはその侵害は独立して処罰の対象とならないから、事後強盗罪は別として、2項強盗は不成立となるとの見解も主張されます。
事後強盗罪
編集総説
編集事後強盗罪は238条において、「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」と定められています。
このように、事後強盗罪(また昏睡強盗罪(239条)も同様です)は、「強盗として論ずる」と定められており、その法定刑や、強盗致傷罪、強盗強姦・同致死罪、強盗予備罪との関係でも強盗罪と同様に扱われます。
- 主体
- 窃盗です。窃盗とは、窃盗の実行に着手したもの、すなわち窃盗犯人を言い、未遂犯・既遂犯いずれをも含むとするのが判例・通説となっています。これに対して、未遂犯人が逮捕免脱の目的で暴行した場合に、それだけで本条に該当するというのは不当との見解も主張されています。また、ここでいう窃盗に主体に強盗も含むかどうかについては見解が分かれています。強盗も含むと考える見解は、同じく盗取を内容とするものであって除外する理由がないと主張しますが、強盗は含まれないとの見解も主張されます。
- 行為
- 本罪の行為は、所定の目的により暴行・脅迫を加えることです。現実に取り返されることを防いだか否か、あるいは逮捕を免れ、罪跡を隠滅したかは、本罪の成立とは関係がありません(最判昭和22年11月29日刑集1巻40頁)。強盗ないし強盗未遂罪に近似した犯罪性を肯定するため、本罪の暴行・脅迫は、窃盗の犯行現場または窃盗の機会の継続中に行われることを要します。判例では、窃盗現場から数十メートル離れた地点で巡査に現行犯人として逮捕され、連行される途中に逃亡し、逮捕を免れるためその巡査に暴行を加えた事例(最決昭和34年6月12日刑集13巻6号960頁)、犯行の約1時間後に被害者に天井裏に潜んでいたところを察知され、約3時間後に通報により駆けつけた警察官に暴行を加えた事例(最決平成14年2月14日刑集56巻2号66頁)において、本罪の成立が肯定されており、一方で、他人の留守宅に侵入して財布を盗み、約1キロ離れた公園で現金を数えたが、少なかったので再び盗みに入ろうと引き返し、玄関に入ったところ家人に発見されたのでナイフで脅迫した事例(最判平成16年12月10日刑集58巻9号1047頁)では、本罪の成立は否定されています。
未遂
編集強盗致死傷罪と同様に考えると、本罪の未遂・既遂については窃盗の未遂・既遂を問わないものと解することも考えられますが、そうすると強盗罪の場合と比べて均衡を失する(強盗罪の場合は、物を得られなかった場合には強盗未遂となるのに対して、本罪については、物を得られなくとも事後強盗罪既遂として処罰されることとなってしまいます。)ということもあり、窃盗自体が事後強盗罪の重要な構成要件要素であることから先行する窃盗が未遂か既遂かによって本罪の未遂・既遂が決定される、というのが通説・判例となっています。
これに対し、例え先行する窃盗が既遂であっても、暴行・脅迫が功を奏さずに財物が取り返された場合であれば、事後強盗罪の未遂とする見解も主張されています。
共犯
編集共犯の成立に関して、事後強盗罪につき以下のような見解が主張されています。
- 真正身分犯とする見解。裁判例では、大阪高判昭和62年7月17日判時1253号141頁があります。
- 不真正身分犯とする見解。裁判例では、新潟地判昭和42年12月5日下刑集9巻12号1548頁や東京地判昭和60年3月19日判時1172号155頁があります。
- 結合犯とする見解。
身分犯とする見解については、一般に窃盗の既遂・未遂により事後強盗罪の既遂・未遂が決定されると考えられているため、身分犯とするとこれと整合しない、窃盗罪が事後強盗罪と別に成立すると解することとなるが妥当でない、加重処罰の根拠が説明されていない、などとして批判されています。これに対し、結合犯とする見解については、窃盗の着手により事後強盗罪の未遂を肯定しなければならないこととなるとして、批判されています。
(参照 w:事後強盗罪)
昏睡強盗罪
編集昏睡強盗罪は239条において、「人を昏睡させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。」と定められています。本罪は、財物を奪取する目的で、麻酔薬・睡眠薬などを使用し、不法に相手方の意識作用を害して財物を奪取する罪です。
昏睡させるとは、薬物などにより意識作用に傷害を生じさせて財物に対する支配をなしえない状態に陥れることでありますが、完全に意識を喪失させることは必要ではありません。また犯人自ら昏睡させることを要し、他の原因により昏睡状態となったことを利用した場合には窃盗罪となります。また、暴行など、昏睡以外の方法で昏倒させた場合には、強盗罪となります。
昏睡それ自体は昏睡強盗罪の当然の前提とされているものであり、強盗致傷罪に言う負傷には当たらないと解されています。
(参照 w:昏睡強盗罪)
強盗致死傷罪
編集強盗致死傷罪は240条において、「強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。」と定められています。これは、生命・身体の安全を特に保護する観点から、強盗罪の加重類型として定められたものです。
客観的要件
編集本罪の主体は強盗です。強盗とは強盗犯人を言い、強盗未遂犯人(最判昭和23年6月12日刑集2巻7号676頁参照)や、強盗として扱われる、事後強盗・昏睡強盗犯人およびその未遂犯も含みます。
本罪の客体となる、死傷の結果が発生した「人」は、強盗罪の被害者に限られません。
死傷がいかなる行為から生じた場合に本罪が成立するかについては見解が分かれています。
- 強盗の手段である暴行・脅迫から生じた場合に限るとする見解(手段説)。
- 強盗の機会に死傷の結果が生じることで足りるとする見解(機会説)。
- 強盗の手段としての暴行・脅迫には限られないが、その原因行為は強盗行為と密接な関連性を有するものに限られるとする見解(密接関連性説)。
- 強盗の手段である暴行・脅迫と、事後強盗類似の状況における暴行・脅迫から死傷が生じた場合に限るとする見解(拡張された手段説)。
手段説ほど限定的に解する必要はないものと考えられていますが、機会説の立場に対しては、ここまで処罰の対象を広げると、強盗と死傷を惹起した罪との観念的競合を超えた重い法定刑が定められていることを正当化できないとして批判がなされており、その中間的な立場である見解が多数となっています。
一方、判例(大判昭和6年10月29日刑集10巻511頁、最判昭和24年5月28日刑集3巻6号873頁など)は、機会説の立場を採っています。
強盗致傷となるために必要な傷害としては、以下の見解が主張されます。
- 強盗の手段である暴行・脅迫は相手方の反抗を抑圧する程度のものでなければならないところ、そこから軽度の障害が生じることは当然のことであり、不当に刑が重くなるとして、傷害をより重度のものでなければならないとする見解。多数説となっています。
- 通常の傷害罪と同様のものでよいとする。判例の立場です。
かつては、強盗致傷罪は無期または7年以上の懲役と規定されていたため、強盗致傷罪となると情状酌量により減軽しても執行猶予とすることができず、傷害の範囲を限定的に解する必要があると考えられていましたが、平成16年の法改正によって無期または6年以上の懲役とされたため、傷害の範囲についての学説に影響を与えることが考えられます。
主観的要件
編集死傷について故意がある場合、かつて判例は殺人罪と強盗致死罪との観念的競合としていましたが、その後の判例(大連判大正11年12月22日刑集1巻815頁、最判昭和32年8月1日刑集11巻8号2065頁)では刑法240条のみの適用が認められています。また、通説もこれを支持しています。故意がある場合について、強盗傷人罪、強盗殺人罪と呼ばれます。
また、原因行為の主観的要件として、どのようなものが最低限要求されるかについても、議論されています。機会説や密接関連性説の立場からは、暴行の認識を必要とする見解などが主張されます。また、手段説や拡張された手段説からも、純然たる過失致死傷の場合は除外され、少なくとも暴行・脅迫の故意は必要とする見解などが主張されています。
脅迫行為から死傷の結果が生じた場合であっても、脅迫行為に内在する危険が直接実現したといい得る場合、強盗致死傷罪の成立が肯定されうるものと考えられます。
未遂
編集本罪の未遂は、強盗自体が未遂に終わった場合ではなく、故意をもってした傷害・殺人が未遂に終わった場合と解されます。もっとも、強盗傷人罪については、未遂の場合、単に暴行が行われたに過ぎず、また傷害の故意があることでかえって未遂として刑が軽くなるのは妥当でないと考えられます。そこで、結局本罪の未遂が成立するのは、殺意をもってした強盗殺人罪において、殺人の点が未遂に終わった場合だけとするのが、通説となっています。これに対して、強盗が未遂の場合にも未遂とする見解も主張されています。
(参照 w:強盗致死傷罪)
強盗強姦罪
編集強盗強姦罪
編集強盗強姦罪は、241条第一文において、「強盗が女子を強姦したときは、無期または七年以上の懲役に処する。」と定められています。本罪の主体は、強盗、すなわち強盗犯人であり、本罪についても、これを身分犯とする見解と、結合犯とする見解とが主張されています。
本罪の未遂・既遂は、強姦の未遂・既遂によるとするのが通説です。また、判例によれば、強盗の着手後に強姦意思を生じた場合であっても、本罪が成立します(最判昭和30年12月23日刑集9巻14号2957頁)が、強姦の後に強盗の意思を生じて強盗した場合については、強姦罪と強盗罪との併合罪としています(最判昭和24年12月24日刑集3巻2号2114頁)。
強盗強姦致死罪
編集強盗強姦致死罪は、241条第2文において、「よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。」と定められています。本罪は条文上、「よって死亡させたときは」と規定されており、文言から明白に結果的加重犯として定められたものと考えられますが、死の結果について故意がある場合につきどのように解するか、見解が分かれています。
- 故意がある場合には本罪に含まれないという見解。判例・通説の立場であり、判例はこの場合につき強盗強姦罪と強盗殺人罪の観念的競合としています。
- 故意がある場合も本罪に含まれるという見解。この見解は、死の結果や強盗を二重に評価することを回避すること、刑の均衡を図ることをその根拠とします。また、手段説や拡張された手段説からは、強盗殺人罪の成立は肯定し得ないとも主張されます。
なお、傷害の場合については、以下の見解があります。
- 強盗強姦罪とする見解。
- 強盗強姦罪と強盗致傷罪の観念的競合とする見解。
- 強盗強姦罪と傷害罪の観念的競合とする見解。
(参照 w:強盗強姦罪)
強盗予備罪
編集強盗予備罪は237条において、「強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以下の懲役に処する。」と定められています。
本罪は、殺人予備罪などと異なり情状による刑の免除規定がないことに特色があります。そこで、予備罪の中止犯について問題とされますが、これについては刑法総論の中止犯の講座を参照してください。
また、事後強盗の予備が認められるか(例えば、空き巣をしようと思う者が、もし見つかった場合に備えてナイフを購入した場合に、それが本罪で処罰可能かどうか)については、以下の両説が主張されます。
- 事後強盗は窃盗を前提とするものであるが、窃盗の予備が罰せられないにもかかわらず、それを事後強盗の予備として処罰できるというのは妥当でなく、事後強盗の予備は強盗予備罪としては認められないという見解。
- 強盗罪として論ずると定められる以上予備についても等しく取り扱うべきであり、また窃盗の準備と、発見された場合に暴行・脅迫を行うという事後強盗の準備とは実行行為との関係で区別されることなどから、事後強盗の予備も強盗予備罪として認める見解。
判例(最決昭和54年11月19日刑集33巻7号710頁)は、事後強盗罪の予備の可罰性を肯定しています。