訴訟当事者
ここでは、訴訟当事者に関して、当事者の概念や当事者能力、訴訟能力、弁論能力などについて扱います。また、訴訟上の代理人についても、ここで扱います。
当事者
編集民事訴訟の「当事者」とは一般に、自己の名において[1]訴えまたは訴えられることにより判決の名宛人となる者をいいます[2][3]。
「訴えまたは訴えられることにより」ということは、民事訴訟の二当事者対立構造[4][5]を表しており、利害の対立する紛争当事者を訴訟当事者として手続きに関与させ、それぞれの主張・証拠をぶつけ合わせる地位と機会を与えるという訴訟構造を前提とするものです。
また、「判決の名宛人となる者」という当事者の定義は、「当事者」とは訴えによって決定されるものであるという形式的当事者概念に基づいています。その訴訟の事件の実態とは別に、判決の名宛人によって当事者を定義しようというのが形式的当事者概念です。この場合、事件の実態での当事者が、形式的当事者とは異なる場合がありえますが、そのような実態上の当事者を誰とすべきかという判断については「当事者適格」の概念でなされる事になります[6]。
ともかく、形式的当事者概念はすなわち、訴訟当事者となるためには自己の名において判決を求めれば十分であって権利者自身である必要はなく、これは権利義務の主体として主張されている者が当事者となるという、実質的当事者概念を否定する立場に立つものです。
一方、歴史上では、事件の実態を考慮して「当事者」と捉える実体的当事者概念がとられていた時代もありました[7]。学問的な言い回しでは、訴訟物たる権利義務の主体を当事者であるとする、のが実体的当事者概念だと説明される事がよくありました[8][9]。
歴史については、日本だけでなくドイツでも19世紀までは実体的当事者概念が有力でしたが、しかし破産管財人が破産者のために当事者になる実務が、実体的当事者概念では説明しづらかった事もあり、現代では形式的当事者概念が有力説になっています[10]。
このような当事者の確定については、意志説、行動説、表示説、規範分類説、確定機能縮小説、などがある。
表示説とは、訴状の記載を基準にして[11]当事者として確定する[12]という考えです。
行動説とは、当事者らしく振舞い、当事者として実際に扱われた者[13]を当時者とする[14]という考えです。批判としては、どのゆな行動が当事者らしい振舞いとして認定されるのか明確でないという批判があります[15][16]。
意思説とは、原告[17]ないし裁判所の意思内容を基準とするという考えです。意思説に対する批判としては、内心の自由を判断するのは容易ではないという批判があります[18][19]。
日本では従来、表示説が通説となっていましたが[20]、しかし通説としての表示説は「実質的表示説」というものを含めたものであり、実質的表示説とは当事者欄の記載に加えて請求の趣旨や訴状の全趣旨をしん酌(斟酌、しんしゃく)するものです[21][22]。一方、請求の趣旨などはしん酌せず、当事者欄の記載に限定して当事者を決める考えを「形式的表示説」と言います[23]。
そして従来、表示説に対して意思説や行動説も主張されてきました。また、その他これらを組み合わせた説なども主張されています。もっとも現在では、具体的事例によって問題となる局面は異なるため、具体的問題と離れて当事者確定を論じることはないとも考えられています。
ともかく、裁判所が訴訟での当事者が誰であるかを明らかにする必要がある(当事者の確定)[24][25]。
「当事者の確定」が問題になる事例として、氏名冒用訴訟、死者名義訴訟、訴状に書くべき被告を間違えた場合、などがあります[26][27]。氏名冒用訴訟とは、他人の名前を騙って訴訟を起こす事などです[28]。死者名義訴訟とは、なんらかの事情で訴状に当事者として記載された者が死者である事であり[29][30]、たとえば訴え定期時に訴訟上の当事者がすでに死亡していた事に気づかないまま訴訟が起きてしまった事などです[31]。
訴状に書くべき被告を間違えた場合として、よく議論になる例は、企業を訴える際、その企業名の「○○株式会社」または「株式会社○○」といった語順を間違える例や[32]、あるいは商号変更した会社に対して旧商号で訴えてしまった例[33]です。
当事者の確定の際、基準として意思説、行動説、表示説、などが考慮されます[34]。
- 参照
- ↑ 三木、P89
- ↑ 安西、P43
- ↑ 山本、P90
- ↑ 安西、P43
- ↑ 山本、P91
- ↑ 山本、P91
- ↑ 三木、P90
- ↑ 三木、P90
- ↑ 山本、P90
- ↑ 三木、P90
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 山本、P94
- ↑ 安西、P43
- ↑ 三木、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
- ↑ 三木、P95
- ↑ 山本、P94
- ↑ 三木、P95
(参照 w:当事者)
当事者能力
編集当事者能力とは、民事訴訟において当事者となることのできる一般的な資格のことです。少なくとも民法上の権利能力を有する者に当事者能力が認められます(28条)。つまり、自然人または法人には当事者能力が認められます(民法3条)。
行政訴訟ですが、アマミノクロウサギを原告とした訴訟が、当事者能力が無いとして訴えが却下された判例〔民訴137 II〕があります[1][2]。
一方、後述する法人格でない社団または財団でも、代表者や管理人の定めがある場合には、その団体は訴える事および訴えられる事ができるとあり(29条)、この社団または財団には当事者能力が認められます[3]。 具体的には、法人登録をしていなくても、町内会、同窓会、未登記の労働組合[4]。、などが該当します。
また、これはつまり、このような団体は訴訟をする権利がある事および訴訟を起こされる事もあるのはもちろん、判決の名宛人になる事もあり、つまりそのような団体が強制執行の対象者になる可能性もあるという事です[5]。
当事者能力とは、権利義務の主体となり得る能力である権利能力に対応するものであり、訴訟法上の主体として訴訟追行の効果を受け、判決の名宛人として判決効の帰属主体となることのできる資格を指します。
一般的資格とは、提起された請求との関係で具体的な訴訟追行の資格を問う当事者適格とは区別される、より一般的な訴訟要件であることを意味します。
民事訴訟は私法上の権利義務ないし法律関係の存否を確定することで紛争を解決するものであり、私権の享有主体となるものについて訴訟手続きの主体として認める必要があります。そこで28条では、当事者能力につき原則として民法その他の法令によるものと定めています。
- 参照
権利能力なき社団・財団
編集29条は、権利能力なき社団・財団について、代表者又は管理人の定めがあるものについては、その名において訴え、または訴えられることができるとして当事者能力を認めており、これは相手方が団体の構成員を探索しなければならないという負担を回避し、訴訟手続きを簡明なものとするための規定と考えられます。これにより権利能力なき社団などが訴訟の当事者となると、判決の効力は当事者(ここではその権利能力なき社団など)についてのみ及ぶため、個々の構成員には及ばないこととなります。
どのような場合に権利能力なき社団として認められるかについては、民法 (総則)の法人の講座を参照してください。
また判例(最判昭和37年12月18日民集16巻12号2422頁など)においては民法上の組合についても29条に該当し当事者能力が認められるとしています。
訴訟能力
編集訴訟能力とは、ある者が単独で訴訟行為を有効に行うことができる資格のことです。訴訟能力についても、特別の定めがある場合を除いて民法その他の法令に従うこととされており(28条)、このことから訴訟能力とは原則的に私法上の行為能力に対応[1]すると考えられています[2][3]。
また、未成年者および成年被後見人は、法定代理人によらなければ訴訟できない(31条本文)。
未成年者について、この規律は、民法5条による法律行為の原則とは異なる。民法5条では、未成年者は単独でも法律行為ができるとしてあり、法定代理人の同意がない場合は取り消せるとあるが(民法5)、しかし訴訟は専門的な知識が必要なため未成年者には負担が大きすぎるので、民事訴訟法では未成年者は最初から単独では訴訟ができない規定になっている[4][5]。
なお、未成年者でも婚姻により成年に達したとみなされる場合(民法753)、訴訟能力をもつ(31条但し書き)。
被保佐人・被補助人については、一定の訴訟行為をする場合には保佐人の同意が必要である(民法13条1項4号)[6][7]。ただし、被保佐人・被補助人が相手方の提起した訴え・上訴について訴訟行為をするには保佐人等の同意は不要である(32条1項)。
また、同意を得た場合でも、判決を終了させる効果のある行為(和解や訴えの取り下げなど)については、その行為は訴訟の終了という重大な結果をもたらすゆえ、個別に保佐人・補助人の特別の授権が必要である[8][9]。
- 訴訟能力欠缺(けんけつ)の効果
訴訟能力の制限に違反した行為は、形式上は、私法上の行為能力制限違反と異なり、取消しうるものではなく当然に無効となります。しかし実際は、法定代理人が訴訟をあとから追認することが許されています(34条2項)。しかし、一部についてのみ追認することはできず、追認する場合には訴訟者の行った全ての訴訟行為について追認しなければなりません[10][11]。
また、裁判所は、訴訟能力のない者から訴訟を持ち込まれても、直ちに排斥してはならず、一定の期間を定めて補正を命じなければなりません(34条1項前段)。 ここでいう「補正」とは、たとえば未成年者が単独で起こした訴訟なら、法定代理人の追認を得ることと[12]、また将来の訴訟追行に法定代理人を協力させる措置をとるように未成年者に命じることです[13]。
もし追認がなされれば、それまでの訴訟行為はさかのぼって有効になる(34条2項)。これに対し、もし追認がなされない場合、訴訟行為は無効になり、つまりその訴えは却下される[14]。
(※要出典)このような規定は、訴訟手続きの安定・明確化を図るためのものです。
このような訴訟能力の具備は、当事者能力などと異なり、訴訟要件ではありません。訴訟能力を欠く者が単独で訴えを提起した場合や訴状送達を受けた場合には訴えが却下されますが、それは訴訟要件を欠くためではなく、その訴え提起や訴状送達の受領行為が無効であり、訴訟係属自体が適法でない結果として訴えが却下されることとなります。
以上の例外として、身分上の行為は本人の意思に従い行わせるという民法に対応する形で、人事訴訟においては、意思能力を有する限り、行為能力を制限された者であっても訴訟能力を有するものとされています。
なお、訴訟能力の無い者が訴えられた場合、そのままでは相手方は訴訟が続行できなくなってしまうので、裁判所は特別代理人を選任して、訴訟能力の無い者にその代理人をつけなければならない(35条)[15][16]。
- 参照
弁論能力
編集弁論能力とは、訴訟手続きに関与して現実に訴訟行為を有効に行う資格をいいます。弁論能力は訴訟手続の円滑迅速な進行と、司法制度の適切な運営のための制度であり、そのため当事者のみならず代理人等についても問題となります。
裁判所は、弁論能力を欠く者を訴訟から排除し、その訴訟行為を無視することができます。また、訴訟関係を明瞭にするために必要な陳述をすることができない当事者等について、陳述を禁止する裁判を行い、口頭弁論続行のため新たな期日を定めることができます(155条1項)。
代理人
編集代理人とは
編集上記のように当事者能力があれば訴訟主体となり得ますが、訴訟能力がなければ訴訟行為はできないため、代理人による訴訟行為が行われる必要があります。また、訴訟能力があるものについても、その活動領域を広げ、法律の専門家により法律知識を補うことを可能にする点において、代理制度は有用なものです。
訴訟法における代理人とは、本人の名において、これに代わって自己の意思により訴訟行為をし、またはこれを受ける者をいいます。他人の訴訟行為を伝達するだけであればそれは使者であり、また他人のために訴訟追行をする者であっても、当事者として自己の名において訴訟追行するのであれば代理人ではありません。訴訟法における代理人にも、本人の意思によらずに選任される法定代理人と、本人の意思により選任される任意代理人とがあります。
訴訟代理人
編集訴訟追行のための包括的な代理権を付与された者のことを「訴訟代理人」という。訴訟委任による訴訟代理人といえば、このような包括的な代理権を付与された人物のことである[1]。
訴訟代理人には、法令により訴訟代理人となると定められている「法令による訴訟代理人」と、「訴訟委任による訴訟代理人」とに分けられます。訴訟代理人は、狭義には訴訟委任による訴訟代理人のみを指します。訴訟委任による訴訟代理人の権限については、55条において、特別授権事項(55条2項)を除く包括的な権限が法定されています。訴訟代理人は任意代理人の一部に当たり、その選任が本人の意思により行われるものです。
「法令上の訴訟代理人」としては、商法21条1項に定められる支配人などがあり、このような法令上の訴訟代理人は、裁判上の権限が与えられることが法定されているのではありますが、あくまで本人の授権によりその地位についているため、任意代理人に含まれるものと考えられます。
複数の訴訟代理人を選任することも可能です。ただしその場合、手続きを円滑にするめるため、各訴訟代理人は単独で代理する権限を有し、本人との間で共同代理と定めてもそれは内部関係にとどまります(56条)。
訴訟委任に基づく代理人
編集訴訟委任に基づく訴訟代理人については原則として弁護士でなければならない(54条1項本文)。これを弁護士代理の原則と言い、その趣旨は、訴訟手続きの円滑な進行を図ること、および、(※ 要出典: 専門的知識を有しまた懲戒制度等も定められている弁護士を代理人とすることで、)本人の利益を保護するためのものであると考えられます(いわゆる三百代言の排除)[2]。
ただし例外として、簡易裁判所では、裁判所の許可があれば、弁護士資格のない者を訴訟代理人とできる。
ほか、2002年の法改正により司法書士は簡易裁判所の訴訟手続きにおいて訴訟代理をすることができる(司書3条1項6号)。
ほか、弁理士は特許権侵害訴訟において訴訟代理人となる事ができる(弁理士6条、6条の2)[3]。
民法では本人の死亡は委任の消滅事由になるが(民111条1項1号)、しかし訴訟委任では本人が死んでも消滅しない(58条1項)。代理人(弁護士側)が死んだ場合は消滅事由になりうる[4]。
このような特別法のある理由は、裁判の迅速化、弁護士制度に対する信頼などが理由である[5]。
訴訟終了以外の理由で訴訟代理権が消滅するとされる行為は、代理者が死亡した場合、委任契約の解除、委任者の破産、などであり、本人または代理人から相手方に通知しなければその効力を生じない(59条、36条1項[6])[7]。
法定代理人
編集訴訟法において法定代理人となる者としては、まず実体法上の法定代理人があります(これも28条により民法その他の法令に従うものの一つです)。
また、訴訟法上の特別代理人も定められています。訴訟法上の特別代理人の代表例は、訴訟無能力者に対して訴訟を行う相手方のために選任する例であり、その訴訟無能力者に法定代理人がいない、あるいは法定代理人がいても代理権を行使しない場合、その相手方のために裁判所が選任するものです。
もし法定代理人のいないままでは訴えを提起することができないこととなりますが、そうすると相手方は権利行使の途を閉ざされてしまうこととなって不当なため、このような場合には、受訴裁判所の裁判官が特別代理人を選任するというものです(35条)。
手続きとしては、相手方の裁判所への申し立てにもとづき、裁判所が特別代理人を選任します[8][9]。
このように、特別代理人の制度は本来、無能力者の相手方保護の制度であり、相手方が申請人となるものであるので、無能力者の保護の制度ではないですが、しかし無能力者側から訴訟法上の特別代理人(たとえば親族など)の選任を申請することを認めても差し支えないという判例もあります(最判昭和41・7・28民集20巻6号1265頁)[10]。