当事者適格
ここでは、当事者適格、訴訟担当について扱います。
当事者適格
編集当事者適格とは
編集当事者適格とは、訴訟物たる特定の権利または法律関係について、当事者として訴訟を追行し、本案判決を求めることのできる資格のことです[1][2]。当事者適格は、訴訟追行権といわれることもあります。当事者適格を有する者のことを正当な当事者という場合もあります[3][4]。
当事者適格は、特定の訴訟物たる権利関係について法律上の利害関係が対立している者に認められるものであり、特定の訴訟物との関係から個別具体的に判断されます。この点において、当事者となることのできる一般的資格である当事者能力とは区別されます。民事訴訟では、ある特定の訴訟において正当な当事者となる資格の有無について、一般的な資格である当事者能力と特定の訴訟物との関係での資格である当事者適格という、二段階での審査が行われることとなります。
また、当事者適格は特定の訴訟物との関係で個別に判断されるものであるため、原告となる場合と被告となる場合とで判断基準が異なり、原告適格と被告適格の区別がなされます。
このような当事者適格は、訴訟の主体について、訴えを提起する正当な利益があるか否かを問題とするものです。
当事者適格は訴訟要件の一つであり、当事者に当事者適格が欠けているときには、裁判所は訴えを却下することとなります。
給付の訴え
編集一般的な給付の訴えでは、訴訟物となる給付請求権を自ら持つと主張する者に原告適格があり、原告によってその義務者であると主張される者には被告適格が認められるため、当事者適格は通常あまり問題となりません。
確認の訴え
編集また一般的な確認の訴えでは、確認の利益の判断の際に、その当事者間で訴訟を行うことが紛争解決にとって必要であるか、また実効的であるかが判断され、ここに当事者の正当性もあわせて検討されることとなるため、確認の利益と確認訴訟の当事者適格は原則として表裏一体の関係に立つこととなります。
(参照 w:当事者適格)
訴訟担当
編集第三者の訴訟担当
編集たとえば債務契約において、債務者あるいは債権者が破産宣告を受けると、破産宣告を受けた人物に代わり破産管財人が原告または被告になる(破80)[5]。
この例のように、本来ならその訴訟物での権利義務の主体とされていない第三者が、当事者適格を獲得する事があり、このような事例のことを第三者の訴訟担当という。
第三者の訴訟担当には、本人(もとの原告・被告)の意志とは無関係に法令の定めによって与えられる法令訴訟担当と、権利義務の主体とされた本人の意志による任意的訴訟担当があります。
固有適格と訴訟担当
編集当事者適格の認められる場合として、固有適格と訴訟担当とがあります。固有適格とは、原則として訴訟物たる権利関係についての法的利益の帰属者に認められるものであり、一般的な訴訟はこのような固有適格によるものと考えられます。これに対して、訴訟担当とは、固有適格者でない者が、固有適格者の代わりに、またはこれと並んで当事者適格が認められる場合であって、その判決の効力が権利義務の主体にも及ぶ(115条1項2号)場合のことをいいます。訴訟担当の場合、訴訟担当者が訴訟の当事者であり、本来の利益帰属主体は当事者として訴訟に現れない点で代理とは異なります。例えば、債権者代位権を行使する債権者(民法423条)などがこれに該当するものと考えられ、代位債権者は債務者の代理人ではなく、自らが訴訟の当事者として訴訟を追行します。
このような第三者の訴訟担当としては、法律上当然に行われる法定訴訟担当と、本来の権利義務主体の意思に基づいて行われる任意的訴訟担当があります。また、どのような場合に(訴訟担当としての)当事者適格が認められるかについて、その基準として以下の見解があります。
- 管理処分権説
- 管理処分権説は、その訴訟物について、それを管理・処分する権限が認められる者に当事者適格を認めるという見解であり、これが通説的見解であって、また判例もこのような考慮をするものと考えられます。
これに対して、その訴訟の結果に係る重大な利益を有する者に当事者適格を認めるという見解等も主張されています。
法定訴訟担当
編集法定訴訟担当はさらに分類され、担当者である第三者の利益にもとづくか否かにより分類され、
第三者の権利または保全のために法律上の訴訟追行権が与えられる場合である「担当者のための訴訟担当」と、
担当者である第三者がさらにその他別人の利益保護を遂行するために訴訟追行権が与えられる「権利義務の帰属主体のための訴訟担当」(「職務上の当事者」ともいう)とがあると考えられています。
たとえば人事訴訟において、婚姻の無効または取消を主張したいのに相手方が死亡している場合、検察官を被告にして訴訟をするのですが(人訴12条3項)、これが「職務上の当事者」の例です[6][7]。
法定訴訟担当が問題となるものとして、以下のものが挙げられます。
債権者代位訴訟
編集債権者代位訴訟について、通説・判例(大判昭和15年3月15日民集19巻586頁)は、これは法定訴訟担当であると解しています。すなわち債権者が第三債務者と行った訴訟の判決効は115条1項2号の適用により、債務者に有利にも不利にも及ぶこととなります。債権者代位権によって、債権者には債務者の第三債務者に対して有する債権について管理処分権が認められ、これを争う当事者適格が肯定されるのです。
これに対して、債権者代位訴訟について、債権者が訴訟担当であることを否定し、不利な判決効については債務者に及ばないとし、被告となった第三債務者については、二重応訴の負担を免れさせるため、債務者を157条1項の類推により訴訟に引き込むことができると解する見解も主張されています。この場合被告となる第三債務者に債務者を引き込むことの負担を負わせることとなります。
(参照 w:債権者代位権)
遺言執行者
編集遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており(民法1012条)、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができなくなります(民法1013条)。この遺言執行者について、民法1015条は遺言執行者を相続人の代理人とみなすと定めています。
しかし、通説・判例では、民法1015条の規定はあくまで遺言執行者の行為の効果を相続人に帰属させるためのものであり、相続人と遺言執行者とが遺言や遺産をめぐって訴訟をすることも稀なものではないことから、遺言執行者は相続人の代理人ではなく、法定訴訟担当であると解しています。そこで、各訴訟について、どこまでが遺言の執行といえるかを検討して、遺言執行者に当事者適格が認められるかどうかを判断することとなります。
(参照 w:遺言)
拡散利益
編集環境問題などにおいては、個々人の利益は希薄化しており、個々の利益というよりは被害者間に一体性のある利益の侵害が問題となり、またこのような紛争においては何らかの団体(既存の自治会などの団体やそのために作られた被害者の会、守る会など)が問題を指摘し、被害者をまとめ、加害者側と交渉に当たることが多くあります。
このような紛争において、通常の考え方では被害者の個々人が共同原告となって集団訴訟をすることとなりますが、これでは煩雑であり、また原告となった者が訴訟の当事者として本当に適切であるとも限りません。そこで、このような訴訟において、訴訟提起前に紛争解決行動をしていた者について、その者に紛争の管理権があると考えて当事者適格を認めるという見解が主張されたことがあります。これを紛争管理権説と呼びます。
もっとも、権利帰属主体である被害者らの意向を無視して第三者が訴訟を行うというのは、他者の権利に対する不当な介入ともなるのであって、このような見解は学説においても批判を受けており、以下のように判例もこれを否定しています。
- 最判昭和60年12月20日集民146号339頁
- 本件は、原告ら7名が被告電力会社が一部海域を埋め立てて建設し、操業中であった火力発電所について、海域の汚染や埋め立てによる環境権の侵害を理由に、地域の代表として本件訴訟を提起し、訴訟を追行していると主張して、その操業の差止めと水面の原状回復を求めた事案です(もっとも、原告らはこれに関係する地域に居住しており、全く関係のない地域について訴訟を提起した事案ではありません)。
- 最高裁は、「原告らの本件訴訟追行は、法律の規定により第三者が当然に訴訟追行権を有する法定訴訟担当の場合に該当しないのみならず、記録上右地域の住民本人らからの授権があったことが認められない以上、かかる授権によって訴訟追行権を取得する任意的訴訟担当の場合にも該当しないのであるから、自己の固有の請求権によらずに所論のような地域住民の代表として、本件差止等請求訴訟を追行しうる資格に欠けるものというべきである。なお、講学上、訴訟提起前の紛争の過程で相手方と交渉を行い、紛争原因の除去につき持続的に重要な役割を果たしている第三者は、訴訟物たる権利関係についての法的利益や管理処分権を有しない場合にも、いわゆる紛争管理権を取得し、当事者適格を有するに至るとの見解が見られるが、そもそも法律上の規定ないし当事者からの授権なくして右第三者が訴訟追行権を取得するとする根拠に乏しく、かかる見解は、採用の限りでない。」として、明確に紛争管理権説を否定し、当事者適格を欠くとして請求を却下すべきものと判示しました。
任意的訴訟担当
編集任意的訴訟担当は、本来の権利義務の主体の意志に基づき行われる訴訟担当であり、任意的訴訟信託と呼ばれることもあります。これも訴訟担当であって、代理ではなく、訴訟担当者が当事者として自己の名で、第三者である本来の権利義務主体の権利義務につき訴訟をすることとなります。
明文でこのような訴訟担当が認められているものとして、30条の選定当事者や、手形法18条の取立委任裏書があります。しかし、このような明文がない場合に、弁護士代理の原則(54条)や訴訟信託の禁止(信託法11条)との関係で、認められるものかが問題となります。
判例(最大判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)は、任意的訴訟担当は一般に無制限にこれを許容することはできないが、弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の制限を回避・潜脱するおそれがなく、かつこれを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないとし、その上で民法上の組合について、「組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権と共に訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法11条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のない限り、合理的必要を欠くものとはいえないのであって、民訴法47条(現30条)による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。」と判示しました。
学説では、訴訟担当者の利益のためである場合には任意的訴訟担当者が固有の利益を有している場合(例えば債権譲渡をした者は、その債権について担保責任を負う)に任意的訴訟担当を認め、権利義務の帰属主体のためである場合には、訴訟追行権を含む包括的管理権が認められ、かつその権利関係について現実に密接な関与をしており権利義務の帰属主体と同程度にその権利関係につき知識を持っている場合に任意的訴訟担当を認めるという、実質関係説が多数説となっています。
一方、任意的訴訟担当を広く認めると不都合が生じるとして、これが認められる場合をより厳格に解し、訴訟担当者が固有の重要な利益を有する場合に限るなどといった見解も有力に主張されています。
労働組合と組合員については、組合員の個別の権利とは異なる労働組合全体の利益から訴訟が行われることが考えられ、判例(最判昭和35年10月21日民集14巻12号2651頁)・多数説は労働組合が組合員の任意的訴訟担当となることを否定しています。
固有必要的共同訴訟
編集以上の例外的な場合として固有必要的共同訴訟があります。これは、共同訴訟とすることが法律上強制されかつ合一確定の必要がある場合を言い、一定の範疇の者全員が当事者となってはじめて訴訟追行権が認められるものです。
(参照 w:共同訴訟#固有必要的共同訴訟)