ここでは、裁判所の構成、除斥・忌避・回避や管轄について扱います。

この講座は、民事訴訟法の学科の一部です。

前回の講座は、訴えの提起、次回の講座は、訴訟当事者です。

裁判所

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裁判所は、広義には、裁判官と裁判所書記官、裁判所調査官などの裁判所職員によって組織される官署としての裁判所を意味します。広義の裁判所は国法上の意味の裁判所とも呼ばれ、裁判事務のほか司法行政事務をも分担処理するものであり、裁判所法などでよく用いられています。これに対し、狭義には裁判所は、事件を担当する一人または数人の裁判官により構成される裁判機関としての裁判所を意味し、訴訟法上の裁判所とも呼ばれます。訴訟事件を処理する受訴裁判所や、民事執行手続きを行う執行裁判所という場合の裁判所は、狭義の裁判所をいうものです。また条文上、建物としての裁判所を意味するものとして、「裁判所」という言葉が使われている場合もあります。

裁判機関の構成

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裁判機関としての裁判所の構成には、合議制と単独制があります。合議制の下での裁判は、裁判官が評議し、その過半数の意見によって行われますが、その他の事項については、事務処理が分担されています。

裁判長
合議体を構成する裁判官のうち一人が裁判長となります。裁判長は、口頭弁論の指揮(148条)や、釈明権の行使(149条)などをする権限を持ちます。評決権については、他の陪席裁判官と同等です。
受命裁判官
合議体は、一定の職務行為をを構成員の一部に委任することができます(89条、171条、185条1項など)。この委任を受けた裁判官を受命裁判官と言い、受命裁判官に職務を行わせるかどうかは合議体で決定し、これは裁判長が指定します(民事訴訟規則31条1項)。
受託裁判官
裁判所間の共助として、他の裁判所から一定の事項の処理を嘱託された裁判所において、当該事項の処理に当たる裁判官を受託裁判官と言います(89条、185条など)。

除斥・忌避・回避

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適正・公平な裁判を担保するため、裁判所構成員について除斥・忌避・回避の制度が設けられています。

除斥
除斥は、法定の除斥原因のある裁判官につき、法律上当然に職務執行ができなくなるというものであり、除斥原因は民事訴訟法23条1項に列挙されています。このような、当事者との特別の関係がある裁判官や、事件の審理に関係を持つ裁判官は、法律上当然に職務を行うことはできず、これらが行った訴訟行為は原則として無効となります。この効果は裁判官や当事者の知・不知を問わずに発生し、裁判所は申立てまたは職権で除斥の裁判を行いますが(23条2項)、これは手続きを明確にするための確認的な裁判であって、この裁判によって無効となるものではありません。
忌避
忌避は、除斥原因以外に裁判官が不公正な裁判をするおそれがある時に、当事者の申し立てに基づく裁判によって職務執行から排除するもの(24条1項)であり、忌避の裁判(25条1項)によってはじめて当該裁判官の権限が失われることとなります。すなわち、忌避の裁判は形成的なものです。
回避
回避は、裁判官が自発的に職務執行から身を引くものです。回避をするには、司法行政上の監督権のある裁判所の許可を得なければなりません(民事訴訟規則12条)。

除斥や忌避の申し立てがあった場合には、その裁判があるまで訴訟手続きを停止しなければなりません(26条本文)。例外として、急速を要する場合にはその行為を行うことができますが、後に申し立てに理由ありとして除斥が認められた場合には、その行為の有効性につき問題となり、学説でも見解が分かれています。忌避については、忌避の裁判によってその裁判官が職務執行できなくなるものであるため、忌避の裁判前の訴訟行為は常に有効となります。

以上のような除斥・忌避・回避の規定ついては、裁判所書記官についても準用されています(27条前段、民事訴訟規則13条)。

(参照 、w:除斥w:忌避w:回避

管轄

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民事裁判権は、日本国内の各裁判所が分担して行使します。そして、特定の事件について、いずれの裁判所が裁判権を行使するかについての定めを管轄と言い、ある裁判所が事件について裁判権を行使できる権能を管轄権と言います。管轄権の存在は、訴訟要件の一つであり、管轄権のない裁判所に訴えが提起された場合には、その裁判所は手続きを打ち切り、他に事件を裁判できる裁判所があれば、申し立てまたは職権で移送をします(16条1項)。管轄裁判所が存在しない場合には、訴えを却下します。

管轄は、様々な観点から分類されています。

発生原因による分類

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管轄を発生原因により分類すると、以下のように分類されます。

法定管轄
法定管轄は、法律の規定を原因として発生する管轄であり、これはさらに職分管轄、事物管轄、土地管轄に区別されます。
職分管轄
職分管轄は、裁判権の種々の作用をどの裁判所の役割とするかについての定めです。いずれの裁判所が第一審裁判所となるのか、いずれの裁判所に上訴できるかといった審級管轄も職分管轄の一種です。
事物管轄
事物管轄は、第一審裁判所を簡易裁判所とするか地方裁判所とするかに関する定めです。その基準は、訴訟の目的の価額、すなわち訴額です。訴額が140万円以下の請求について簡易裁判所に管轄があり、訴額が140万円を超える請求及び不動産に関する請求については地方裁判所に管轄があるものと定められています。
土地管轄
土地管轄は、所在地を異にする同種の裁判所間での分担に関する定めです。裁判所にはその職務執行の地域的限界となる、管轄区域が定められており、土地管轄は事件の裁判籍の所在地を管轄区域内に持つ裁判所に生じます。裁判籍については後述します。
指定管轄
指定管轄は、当事者の申立てによって上級裁判所がする裁判に基づく管轄(10条)です。
合意管轄
合意管轄は、訴訟当事者間の合意に基づく管轄(11条)です。合意の内容としては、第一審の管轄裁判所を定めるものに限られ(11条1項)、また一定の法律関係に基づく訴えについてなされるものに限られます(11条2項)。合意は文書または電磁的記録によってなされなければならず、また一旦法定の管轄裁判所に訴えが提起されると、合意によってもその管轄を奪うことはできません(15条)。
応訴管轄
応訴管轄は、被告の意義をとどめない応訴に基づく管轄(12条)です。原告が管轄違いの裁判所に訴えを提起しても、被告が管轄違いの抗弁を主張せずに本案についての弁論をし、あるいは弁論準備手続きにおいて申述したときには、他の裁判所の専属管轄に属するものでない限り、その裁判所に管轄が認められます。

管轄の主たる部分は法定管轄であり、民事訴訟法や裁判所法がこれを定めています。土地管轄や事物管轄についての法定管轄は公益的な要請が低く任意管轄であるのが原則であり、これに反する合意管轄や応訴管轄が生じる余地が認められています。

事物管轄は、第一審裁判所をどの種の裁判所とするかの定めという点で職分管轄の一種ともなり得るものですが、簡易裁判所とするか地方裁判所とするかについては任意管轄である点で、専属管轄である職分管轄と異なるものであるため、事物管轄として区別されています。

拘束力による分類

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専属管轄
専属管轄は、法定管轄のうち、裁判の適正・迅速といった公益的要請から当事者の意思によって法律の定めとは別の管轄を生じさせることを認めないものを言います。
任意管轄
任意管轄は、主として当事者の便宜や公平を図る趣旨のものであり、その目的は当事者の私的利益の保護であるため、当事者の意思や態度によってこれと異なる管轄を認めてもよいものを言います。

専属管轄の定めがある場合には、他の一般規定による管轄の競合は生じません。裁判所もこれを無視して他の裁判所に移送することはできません。もっとも、専属管轄が競合することはあります。

裁判籍

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裁判籍とは、第一審の法定の土地管轄を決定するための、当事者や訴訟物と土地とのつながりを示す特定の地点を指示する観念であり、被告の住所や訴訟物となる義務の履行地などがあります。裁判籍は、普通裁判籍と特別裁判籍に分けられます。

普通裁判籍は、事件の内容・性質に関わりなく一般的に認められる裁判籍であり、被告の住所地など(4条)がこれに該当します。これは、原告が被告に対し一方的に訴訟を提起する以上、その被告の応訴上の利益を保護し、被告の生活の根拠地に出向くのが公平であるとの考慮によるものです。

特別裁判籍は、特定の種類の事件について認められる裁判籍であり、普通裁判籍と競合して認められるものと、専属管轄として普通裁判籍を排除するものとがあります。

特別裁判籍には、独立裁判籍(5条、6条)や関連裁判籍があります。関連裁判席の代表的なものとして、7条の併合請求の裁判籍があります。例えば1つの訴えで数個の請求の審理を求める場合に、そのうちの1つにつき管轄があれば他の事件についてもその裁判所に管轄が認めるというものなどであって、併合請求を容易にして複数の請求につき同じ裁判所で処理することを可能とするものです。

(参照 w:裁判管轄

移送

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訴訟の移送とは、ある裁判所に生じている訴訟継続を、その裁判所の裁判により他の裁判所に移すことをいいます。管轄違いの場合や、裁判の遅滞を避けるなどのための移送があります。また簡易裁判所はその管轄に属する訴訟でも、相当と認めるときは専属管轄に属するものを除いて、地方裁判所に移送することができます(18条)。

第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合であっても、当事者の申立て及び相手方の同意があれば、申し立てられた地方裁判所または簡易裁判所に移送しなければなりません(19条1項本文)。ただし、移送により著しく訴訟手続きを遅滞させることとなるとき、または、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の場合以外の場合には、被告が本案において弁論をし、もしくは弁論準備手続きにおいて申述した後は、本条による移送はできません(19条1項但書)。

移送の申し立ては、理由を明らかにした書面でしなければなりません。移送の裁判は決定でします。移送の決定または移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告ができます(21条)。移送を受けた裁判所は、確定した移送の裁判によって拘束され、これと異なる見解の下に、事件を返送、あるいは転送することはできません(22条)。ただし、移送の原因となった事由とは別の移送事由に基づいて事件を他の裁判所に再移送することは認められています(東京地決昭和61年1月14日判時1182号103頁)。

(参照 w:移送