自由に対する罪1

ここでは、自由に対する罪のうち、身体の自由(身体活動の自由、移動の自由)に対する侵害である、逮捕監禁罪、略取誘拐罪、人身売買罪などについて扱います。それ以外の自由に対する罪については、次回の講座で扱います。

この講座は、刑法 (各論)の学科の一部です。前回の講座は身体に対する罪、次回の講座は自由に対する罪2です。

逮捕・監禁罪

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総説

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逮捕及び監禁の罪は、220条において、「不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。」と定められており、また221条では逮捕・監禁致死傷罪が、その結果的加重犯として規定されています。

これらの保護法益は、人の身体活動の自由です。一定の場所から移動する自由、などともいわれます。ここで、身体活動の自由について、以下の両説が主張されています。

  • 可能的な自由とする見解。自由とはその主体が行動したい時に行動できるということを意味するから、可能的な自由で足りるというものです。
  • 現実的な自由とする説。

自己の自由が侵害されているとの意識についても、必要説と不要説が対立しています。必要説は、自由の意思を欠く者に対して身体活動の侵害はあり得ないというのに対して、不要説は、身体活動の自由が可能的な自由である以上は、その自由が侵害されている限り本罪を構成するといいます。

本罪は、自由の拘束が継続する限り犯罪が継続する、継続犯です。また、本罪の成立にはその行為が身体の自由を拘束したと認められる程度の時間的継続を要し、単に一時的に身体を拘束するに過ぎないときは、暴行罪、脅迫罪などを構成するにとどまる(大判昭和7年2月29日刑集11巻141頁)とされています。

逮捕罪

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逮捕とは、人の身体を直接的に拘束してその身体活動の自由を奪うことを言います。

その方法については、身体を縄で縛るというような有形的方法(物理的方法)でも、拳銃を突きつけて「動くな」と言う場合のような無形的方法(心理的方法)でもよく、方法の如何を問いません。もっとも、身体活動が制約されるというだけでは本罪に該当するとは言えず、例えば両手を後ろ手に縛っただけであれば、暴行罪となります。また、偽計・脅迫などの方法による場合であれば、そのために被害者の自由意思が完全に奪われる程度の偽計・脅迫などが行われたことを要します。

被害者の身体活動の自由が奪われた段階で既遂となり、間接正犯や不作為による場合でも成立します。

監禁罪

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監禁とは、人の身体を間接的(場所的)に拘束して、その身体活動の自由を奪うこと、すなわち、人が一定の区画された場所から脱出することを不能または著しく困難にすることを言います。不作為や間接正犯によっても成立します。。

監禁の方法についても、拘束の手段・方法の如何を問うものではありません。有形的方法による他、錯誤を利用する場合・脅迫による場合などの無形的方法によるものでもよいとされています。

また、脱出の方法があっても、生命・身体の危険があるなど社会通念上一般に恐怖心から脱出に困難を感じる方法で身体活動の自由を奪うときには、監禁となり得ます。判例(最決昭和30年9月29日刑集9巻10号208頁など)では、自動車を疾走させて脱出を困難にする場合につき監禁であるとしています。

逮捕・監禁致死傷罪

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逮捕・監禁という事実から、あるいは逮捕・監禁の手段から、傷害や致死の結果が生じた場合に逮捕・監禁致死傷罪(221条)が成立します。これに対し、逮捕・監禁の機会になされた暴行により死傷の結果が発生した場合には、逮捕・監禁罪と傷害罪などとの併合罪となると考えられます。逮捕・監禁の機会になされたとは、逮捕や監禁という事実や手段とは関係なしにという意味であり、例えば既に部屋に閉じ込めている相手を、前々から憎んでいたので良い機会だと思って殴るような場合のことです。

(参照 w:逮捕・監禁罪

略取誘拐罪

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総説

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略取、誘拐及び人身売買の罪は、人を従来の生活環境から離脱させ、自己または第三者の事実的支配におき、人身の自由を侵害する行為を内容とする犯罪です。刑法では、略取及び誘拐の罪として、未成年者略取・誘拐罪(224条)、営利目的等略取・誘拐罪(225条)、身の代金目的略取・誘拐罪(225条の2第1項)、身の代金要求罪(225条の2第2項、227条4項後段)、所在国外移送目的略取・誘拐罪(226条)、被略取者引渡等罪(227条)を定めています。また、人身売買については、平成17年の刑法等の一部改正によって新設された犯罪であり、人身売買罪(226条の2)、被略取者等所在国外移送罪(226条の3)が定められています。

略取誘拐罪について、これを継続犯とする見解と状態犯とする見解とが主張されています。これは略取誘拐罪の保護法益をどう捉えるかにもよります。状態犯とするのが判例の立場と考えられます。

保護法益

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略取、誘拐及び人身売買の罪が人身の自由を保護法益としていることについて異論はありません。しかし、本罪は嬰児のような、およそ自由に移動する能力を有しない者をも客体としており、また別に逮捕・監禁罪が定められているため、その他に何が保護法益として含まれるものかについて、以下のような見解が主張されています。

  • 被略取者等の自由及び親権者等の監護権の侵害とする説。判例の立場とされています。
  • 被略取者等の行動の自由及び安全とする説。

事実的支配

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略取・誘拐及び人身売買の罪に共通して、被略取者等を事実的支配下に置くことが必要となります。ここで、事実的支配とは物理的または心理的な影響を及ぼし、その意思を左右できる状態のもとに対象者を置き、自己の影響下から離脱することを困難にする状態を言います。

これに加えて、略取・誘拐において被略取者等を場所的に移動させることが必要かについては、見解が分かれます。判例は場所的移動を必要としていますが、場所的な移動は必ずしも要せず、例えば監護者をだまして立ち去らせることも略取・誘拐に当たり得るとの見解も有力に主張されています。

また、一旦略取・誘拐されたものをさらに略取・誘拐することができるかどうかも、肯定する見解と否定する見解とがあります。

未成年者略取・誘拐罪

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未成年者略取誘拐罪は、224条において、「未成年者を略取し、又は誘拐した者は3月以上7年以下の懲役に処する。」と定められています。未遂も罰せられます(228条)。また、これは親告罪です(229条)。

客体
未成年者です。原則としては18歳未満の者を言いますが、婚姻した未成年者については見解が分かれており、婚姻後も生理的には未成年者であることは変わりはないから、本罪の客体に含まれると考えるものと、除外されるというものがあります。
行為
略取または誘拐することです(あわせて拐取といいます)。暴行・脅迫などの強制的手段を用いる場合が略取であり、偽計または誘惑を手段とするのが誘拐です。監護者を欺き同意を得て連れ出す行為も誘拐となります(大判大正3年6月19日刑集3巻502頁)。
既遂時期
拐取の手段を用いれば実行の着手があり、拐取行為によって自己または第三者の事実的支配においたときに既遂となります。
罪数
略取の手段として行われた暴行・脅迫は略取罪に吸収されますが、手段として逮捕・監禁が行われた場合は逮捕・監禁罪が成立し、観念的競合となります。一方、拐取後に拐取者が引き続き被拐取者を監禁した場合には、新たな行為による監禁罪が成立すりこととなり、略取・誘拐罪と監禁罪は併合罪となります。
被拐取者の同意
被拐取者の同意がある場合についてどう考えるかについては見解が分かれており、未成年者の同意は違法性を阻却しないとする見解や、同意能力のある者の真摯な同意がある場合には違法性が阻却されるという見解などが主張されます。多くは、未成年者であるといっても、十分な判断能力が認められる年齢に達しているような場合には、その同意があれば未成年者略取・誘拐罪の成立を否定します。

営利等目的略取・誘拐罪

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225条は、「営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年弐条10年以下の懲役に処する。」と定めています。また、未遂も罰せられます(228条)。わいせつ・結婚の目的による場合には、親告罪となります(229条)。

本罪の客体は人一般です。一方、本罪は目的犯であり、列挙されているいずれかの目的により人を拐取することを要します。

営利の目的
拐取行為によって自ら財産上の利益を得、または第三者に得させる目的を言います。営業的であることは必要でなく、継続的または反復的に利益を得る目的であることも必要ではありません。またその利益は、被拐取者自身の負担により得られるものに限られません。さらに、取得すべき利益が不法なものか否かも問いません。もっとも、以上のような見解に対しては、営利の目的をより限定的に解すべきとの見解も主張されています。
結婚の目的
行為者または第三者と結婚させる目的を言います。結婚とは、法律上の結婚に限らず事実上の結婚をも含みます。条文上「婚姻」とせず「結婚」としていることから、内縁をも含む趣旨であると解されます。
既遂時期
本罪は、被拐取者を営利等の目的で自己または第三者の事実的支配におけば既遂となり、それぞれの目的を遂げたことは必要ではありません。

身の代金目的略取・誘拐罪

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225条の2第1項は、「近親者その他略取されまたは誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、または誘拐した者は、無期または3年以上の懲役に処する。」と定めています。また、未遂も罰せられます(228条)。

この身の代金目的略取・誘拐罪は、昭和39年に新たに追加されたものであり、身代金目的の略取・誘拐では一般に身代金を受け取れば被拐取者はむしろ邪魔となり、殺害される場合も多いという、身の代金にかかる犯罪の有害性、被害の残酷性、伝播性・模倣性から、一般予防的見地にも立って新設されたものです。

身の代金目的略取・誘拐罪は、営利目的略取・誘拐罪の加重類型です。本罪は目的犯であり、被拐取者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させる目的で拐取することが必要となります。すなわち、財産上の利益を得る目的(例えば債務の免除を受ける目的)は含まれません。もっとも、財物は、安否を憂慮する者が処分し得るものであれば足り、所有物である必要はありません。また「安否を憂慮する者の憂慮に乗じて」とは目的の内容をなすものであり、実際に被拐取者と特別な関係に立つものがいなかったとしても、あるいは実際には憂慮しなかったとしても、本罪は成立します。

ここで、安否を憂慮するものとは、被拐取者との密接な人間関係があるため、被拐取者の安全について親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にあるものを言う(最判昭和62年3月24日刑集41巻2号173頁)とされており、この判例では、相互銀行の代表取締役が拐取された事例において、その銀行の幹部が安否を憂慮する者にあたるとしています。

略取・誘拐者の身の代金要求罪

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略取・誘拐者の身の代金要求罪(225条の2第2項)は、人を略取しまたは誘拐した者が、拐取後に、近親者その他被拐取者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて身の代金などの財物を交付させ、あるいはこれを要求した場合に成立します。

本罪の主体は、一般に拐取の実行行為を行った者に限られると解されています。もっとも、教唆・幇助者も含むとの見解も主張されます。本罪の既遂は、拐取後身の代金などの要求の意思表示がなされれば既遂となり、意思表示が要求の相手方に達したことを要しません。そのため、基本的に未遂が成立する余地はありません(本罪には未遂形態も取り込まれています)。

なお本罪については、安否を憂慮する者の憂慮に乗じたことを要するから、要求はしたが相手方が安否を憂慮する者でなかった場合や、憂慮と財物の交付との間に因果関係がない場合には、本罪は成立しないとの主張もなされます。

また、被拐取者収受者の身の代金要求罪も定められています(227条4項)。

被拐取者の開放による刑の減軽

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228条の2は、「第225条の2又は第227条第2項若しくは第4項の罪を犯した者が、公訴が提起される前に略取され又は誘拐された者を安全な場所に開放したときは、その刑を減軽する。」と定めています。

これは、身の代金目的の拐取罪または身の代金目的の被拐取者収受等の罪を犯した者は、犯罪の性質上被拐取者を殺害する恐れがあるため、犯人に犯罪からの後退の途を与えて被拐取者の生命の安全を図るという刑事政策的見地から、刑の必要的減軽の規定を設けたものです。

解放とは、被拐取者を単に事実的支配から解放するだけでは足りず、安全な場所に開放しなければならないとされています。また安全な場所とは、被拐取者が安全に救出されると認められる場所を言い、救出されるまでに生命・身体に具体的な危険が生じない程度の場所を意味します。もっとも、漠然とした抽象的危険や単なる不安感があるだけで安全な場所でないとされるわけではありません(最決昭和54年6月26日刑集33巻4号364頁)。

所在国外移送目的略取・誘拐罪

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所在国外移送目的略取・誘拐罪(226条)は、所在国外への移送自体が被拐取者の自由及び安全を害するという考えのもとに、それを目的とした略取・誘拐を処罰するものです。

判例(最決平成15年3月18日刑集57巻3号371頁)は、オランダ国籍の者が、別居中の妻が監護養育していた2歳の娘をオランダに連れ去る目的で、娘が入院していた病院から拉致したという事案につき、本罪の成立を認めています。

(参照 w:略取・誘拐罪

人身売買罪

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人身売買罪は、人身売買それ自体を取り締まるために、平成17年に創設された規定です。

人身買受け罪(226条の2第1項)は、人を買受けた場合に3月以上5年以下の懲役としており、また未成年者買受け罪(同条2項)は未成年者を買受けた場合に、3月以上7年以下の懲役、営利目的等人身買受け罪(同条3項)は、1年以上10年以下の懲役と定めています。

人身売渡し罪(同条4項)は、それ自体に営利目的が認められ、1年以上10年以下の懲役と定められています。

国外移送目的人身売買罪(同条5項)は、所在国外に移送する目的で人を売買した場合に2年以上の有期懲役となるものと定めています。

(参照 w:人身売買罪