ここでは、所有権に関して、その内容や取得原因などについて学びます。

この講座は、民法(物権)の学科の一部です。前回の講座は動産の物権変動、次回の講座は共有です。

所有権

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所有権は、その物に全面的・排他的な支配を及ぼすことができる権利であり、その物を自由に使用・収益し、処分することができるとされています(206条)。このような自由を所有権の自由と呼び、近代民法の原則の一つ(所有権絶対の原則)とされています(以前の民法とはの講座も参照)。

ただし、206条が「法令の制限内において」と定めているように、権利に対する制約が所有権についても存在しています。もっとも、これはどのような制限であっても法令によりさえすれば可能となるというものでもありません。憲法29条1項が、財産権を保障し、その2項において、財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める、としていることから、これらの憲法の規定に反するような法令は無効であり、そのような制限は許されないものです。

ただ、憲法29条2項の「公共の福祉」や3項の「公共のため」などといった規定は様々に解釈され得るものであり、所有権の自由に重点を置くか、所有権の社会性に重点を置くかで制限の許容範囲も変わってきます。

土地所有権の範囲

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民法の207条では、土地の所有権は法令の制限内においてその土地の上下に及ぶものとされており、上空や地下についても、例えばこれを他者が無断で使用しているような場合には、所有権に基づきその使用をやめるよう請求することができます。その範囲は、一般的に土地所有権が土地の利用を保障するためのものであることから、土地利用の利益が存する限度でのみ及ぶものと考えられています。

もっとも、上空や地下の利用可能性は技術の進歩と共に高まっており、その具体的な限界の確定は困難といえます。また、法令による制限がない場合であっても、嫌がらせ目的であったり不当な利益を得ようとしているものと認められれば、所有権に基づく請求が権利濫用として認められないこともあります。

なお原則として、土地の利用にはその土地所有者の同意を得て使用権を得る必要があり、そのためには対価の支払いなどのコストもかかるため、費用が増大して地下などの未利用部分も有効な活用が進まないということにもなります。そこで、大深度地下の公共利用について、大深度地下の公共的使用に関する特別措置法が定められ、一定以上の深さの地下について、一定の手続きの下に、土地所有者の同意なしに事業者にその土地の地下部分を使用する権利を与えることができるものとなりました。

(参照 w:大深度地下

相隣関係

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土地は、ほとんどの場合において他者の土地と隣接しており、一方の土地の利用によって他方の土地利用が妨げられることがあります。そこで、隣接する土地相互の利害調整のため、制限が定められています。なお、このような調整が必要となるのは所有権の場合だけに限られず、相隣関係の規定は地上権においても準用されており(267条)、賃借権や永小作権などにも類推適用されるものと解されています。

もっとも、民法の規定は現在の要請に適合したものとは言い難く、多くの場合において他の特別法によって修正などが加えられています。

隣地通行権

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隣地通行権は、他者の土地や湖沼・河川・水路・海・著しい高低差のある崖(210条1項・2項)を通らなければ公道に出られない土地の所有者に、他者の土地を通行する権利を認めるものです。他者の土地を通らなければ公道に出られない土地のことを袋地と呼び、その周囲を囲んでいる土地を囲繞地(いにょうち)と呼びます。また、海などを通らなければ公道に出られない土地を準袋地と呼びます。そのような袋地の利用者(賃借人など)にも通行権が認められています(最判昭和36年3月24日)。なお、民法の現代語化(平成16年)によって民法上、囲繞地という言葉は姿を消しました(従来この通行権も囲繞地通行権と呼ばれていました)。

公道に出られない土地がある場合、その土地の利用は困難となり、有限な土地が無為に放置され、社会の損失ともなると考えられます。そこで、このような隣地通行権が認められています。

もっとも、このような通行権は、通行させることとなる隣地の所有者の土地の利用などを制限することにもなります。そこで、隣地通行権が認められる場合には、通行の場所や方法は通行権を有する者の必要性と通行地の負担の程度を相関的に判断して決定され(211条1項)、通行権者は必要によって通路を開設することができますが(211条2項)、通行地の損害に対して償金を支払わなくてはなりません(212条)。

ただしこれに対して、ある一つの土地が分割されて一方が袋地(もしくは準袋地)となった場合には、袋地の所有者は他方の分割によって生じた土地についてしか通行権は認められず、その通行権について償金の支払い義務を負いません(213条1項)。これは、土地の分割による袋地の発生によって、分割に関与していない者の権利を害するべきでないと考えられるためのものです。そして、償金の支払い義務を負わないのは、分割の際には通行権の発生を予定してその対価などが決定されると考えられるため、通行権によって損害が発生しない(その負担は既に織り込み済みである)ためと解されています。

また、この通行権の負担は、当該土地が第三者に譲渡された場合でも影響を受けずに存続するものであり、袋地に付着した物権的権利で、残余地自体に課せられた物権的負担と解すべきもの(最判平成2年11月20日)とされています。そして、土地の一部が譲渡されて袋地となった場合にもこの規定は準用されます(213条2項)。

(参照 w:囲繞地通行権

接境建築

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土地の境界線付近において建築などがなされた場合、隣接する他方の所有者は日照や通風などが害され、また密集した建築は防火上も問題があります。このような問題を回避するため、民法では原則として境界線から50cm 以上離して築造しなければならないとし(234条1項)、それに反する場合には建築の中止・変更を求めることができるものとしています(234条2項)。もっとも、建築の着手時点から1年を経過した場合や建物が完成した場合には、その撤去などをすると多大なコストがかかり、社会的損失が大きいことから、損害賠償請求しかできません(234条但書)。また、異なる慣習がある場合には、それによるものとされています(236条)。

このような民法の規定に対して、建築基準法65条では、「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」 と定めており、判例ではこの規定に該当する建築物については民法234条の適用は排除されるものとしています(最判平成元年9月19日)。建築基準法の規定は、防火の促進と共に土地(なお一般的には市街地の中心部などの建物の密集した商業地域や近隣商業地域が防火地域や準防火地域に指定されます)の効率的・合理的利用を実現するために定められたものであり、民法の規定がなお適用されるとした場合、その効率的利用という目的が果たされなくなります(双方が50cm 離す結果、市街地でも隣の建物との間に1m の空間ができることとなります)。また建築基準法には防火地域などにおいて一般に接境建築を禁止する規定はなく、それらからこの規定は民法の特則であると解されています。

しかしながら、民法234条の規定は、防火のみを目的とするものではなく、日照などの良好な環境の実現や所有者間の公平をも図る規定であり、これらが建築基準法65条では考慮されていないことから、判例への批判もなされています。

(参照 w:相隣関係

所有権の取得

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所有権の取得原因は、多くの場合、売買や贈与などの契約や相続ですが、民法の第二編 物権 第三章 所有権 第二節 所有権の取得 では、原始取得に関する規定がいくつか置かれています(契約については債権総論や債権各論、相続などについては親族・相続の各講座で扱います)。なお、原始取得のうち時効取得については、総則にその規定が置かれており、民法総則の時効の講座を参照してください。

所有権の取得の規定は、大別すると所有者のいない・わからない物についての規定と、所有者の異なる物が結合して一つの所有権が成立する場合などの規定に分けられます。

無主物先占

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所有者のいない動産は、所有の意思をもって占有することでその所有権を取得することができます(239条1項)。これを、無主物先占といいます。これに対して、所有者のいない不動産は国の所有物となります(239条2項)。

(参照 w:無主物先占

遺失物拾得

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遺失物は、遺失物法の規定に従い公告をした後、3ヶ月以内に所有者が判明しないときは、それを拾得した者がその所有権を取得します(240条)。拾得には、所有の意思は必要ありません。

なお、遺失物法は所有者が現れたときの拾得者に対する謝礼についても規定を置いています(遺失物法28条1項)。遺失物に関する民法および遺失物法の規定は平成18年(2006年)に改正され、平成19年12月より施行されています。

(参照 w:遺失物

埋蔵物発見

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埋蔵物とは、土地その他の物(包蔵物)の中に隠されており所有者のわからないものをいいます。埋蔵物は遺失物法の規定により、公告をした後6ヶ月以内に所有者が判明しないときは、これを発見したものがその所有権を取得します(241条本文)。発見とは、その存在を認識することを言い、占有は要しないものとされています。

ただし、他人が所有する不動産などの物の中から発見された埋蔵物は、発見者と包蔵物の所有者が等しい割合でその所有権を取得します(241条但書)。

なお、化石のような所有者のない物については無主物先占となります。また文化財については 文化財保護法により所有者が判明しないときは、国庫に帰属することとされています。この場合発見者は報償金を受けることになります。

(参照 w:埋蔵物

添付

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所有者の異なる複数の物が一つになった場合や、物に他者の工作が加えられて新たな物が作り出された場合を総称して、添付といいます。添付には、付合、混和、加工の3種類があります。

付合は、所有者の異なる複数の物が結合して一つの物となることであり、不動産の付合(不動産に動産が付合するもの)と、動産の付合(動産同士が付合するもの)に分かれます。なお、建物同士が結合して一つの建物となった場合には、建物の合体と呼ばれ、付合の規定が類推適用されます。

不動産の付合

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一体となったものにつき、その一部についての所有権が残るのであれば、一方の返還請求によって物を分離しなければならないこととなりますが、物の分離によりその物が損傷などを受ける場合には物の価値が失われ社会的にも損失となります。そこで、付合した一つの物について、成立する所有権も一つとして物を存続させるために、付合の制度が定められています。

民法では、不動産の付合につき、242条において、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」と定めており、Aの不動産にBの物が従として付合した場合、原則としてその物は不動産の一部として、Aがその所有権を取得します(242条本文)。物の所有者であるBは所有権を失い、またそれによりその上に設定されていた質権などの権利も消滅します(247条)。Bは不当利得の規定(703条704条)に従ってAに償金を請求することができます(248条。Aの利得は法律の規定によるものであって、形式的には法律上の原因があり不当利得ではないともいえますが、実質的には不当利得であるためこのように定められています。)。ただし、Bが権限によりその物を付属させた場合、その所有権を留保することができます。

従として付合したとはどのような場合をいうかについて、243条と同様に、付属物または不動産を損傷しなければ分離できないか、または分離に過分の費用を要する場合のことをいうとする見解があります。これに対して、243条との規定の差異や、動産が同一性を失って別の一つの物が新たに作られるのに対して不動産は同一性を失わないことから、242条の規定を243条よりも一般的に解して、分離によって社会経済上容認できない不利益が生じるときに付合とする見解も主張されています。また、所有権が及ぶ範囲を確定して取引の安全を図るという点を重視して考え、取引通念上の独立性を基準とする見解も主張されています。

権限による付属の場合の、権限とは、他人の不動産に物を付属させその物を利用する権利を言い、賃借権や地上権、永小作権などのことです。もっとも、権限による付合であっても、その付合が強い付合であり、不動産の構成部分となった場合(例えば農地に肥料を投入したような場合)には、もはや242条但書の適用はないものと考えられています。

また、権限による付属であっても、それを第三者に対抗するためには対抗要件が必要であり、権限について公示方法を備えるか、付属物自体について公示方法を備える必要があるものとされています(最判昭和35年3月1日)。不動産の一部について所有権が留保されているか否かを第三者が知ることは困難であり、また本来不動産の一部となる付属物につき不動産から独立させ付属者に所有させることは、一種の物権変動と見ることもできると考えられ、このように公示が必要と考えられています。しかし、このような問題は対抗問題とは性質が異なるとし、一種の他人物売買と捉えて物権変動一般の問題として処理されるべきものとする見解も主張されています。

動産の付合

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所有権の異なる複数の動産が結合して一つの動産となった場合、これを動産の付合といいます。民法では、動産の付合につき、 243条において、「所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。」と定めており、動産の付合は、損傷しなければその物の分離ができないか、分離に過分の費用を要する場合に成立します。付合が成立すると、付合する前の各動産の所有権は消滅し、その合成物が新たな所有権の客体となります。

付合した動産に主従の区別ができる場合には、その主たる動産の所有者が合成物の所有権を取得し(243条)、主従の区別ができないときは、各動産の所有者の共有となります。共有者の持分権の割合は、付合時の各自が提供した動産の価格の割合によります(244条)。所有権を失った者は、償金の請求ができます(248条)。

(参照 w:付合

混和

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所有者の異なる複数の物が混ざり合って識別できなくなる場合を混和といいます。所有者の異なる酒とジュースを混ぜてカクテルを作った場合などが例として挙げられます。  

混和の場合には、付合についての規定である243条・244条が準用されます(245条)。

(参照 w:混和

加工

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加工とは、他人の所有する動産に工作を加えて新たな物とすることをいいます。例としては、木材を彫刻して仏像を作った場合などがあげられます。加工とされるためには、工作により新たな物が生じたことが必要とされます(大判大正8年11月26日)が、何をもって新たな物とするかは必ずしも明確なものではありません。そのため、新たな物ではなく新たな価値が創造された場合に加工と考えるという見解も主張されています。

なお、加工は、加工により物の同一性が失われ、別の物となった場合の所有権の所在を明らかにする必要から規定されたものと理解されており、不動産は工作が加えられても別の物となるわけではないので、不動産についての加工の規定はありません。

加工物の所有権は、原則としてその材料の所有者に帰属するものと定められており(246条1項本文)、加工者は材料所有者に対して償金の支払いを請求することができます(248条)。

これに対して、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるとき(246条1項但書)、および、加工者も自己の所有する材料を提供した場合で、その提供した材料と工作の価格の合計が材料所有者の材料の価格を超えるとき(246条2項。この場合著しく超える必要はありません。)には、加工者に所有権が帰属します。この場合には、材料の所有者は償金の支払いを請求することができます。

なお、これらの加工に関する規定は任意規定であり、当事者の合意で異なる契約をすることができます。そして、加工者が材料提供者からの依頼で加工をする場合には、一般的に加工物は材料提供者の所有とするとの合意がなされています。

建物の建築
建物の建築において、建築の請負人が材料の全部もしくは主要部分を提供して建築した場合、建物所有権は完成と同時に請負人に帰属し、引渡しによって注文者に建物が帰属します(大判大正3年12月26日)。これに対して、注文者が材料の全部もしくは主要部分を提供した場合には、246条の規定は適用されず、建物所有権は完成と同時に注文者に帰属するものとされています。なお、これと別の当事者間の特約がある場合には、それによることとなります(最判昭和46年3月5日ほか)。そして、注文者が代金の大部分を建物完成前に支払った場合には、そのような特約の存在が推認されるものとしています(最判昭和44年9月12日ほか)。
以上のような判例に対して、建物所有権は注文者が完成時点から取得するというのが通常の当事者の意思であり、請負人の保護は他の制度によっても十分に図れるとして、建物所有権は完成と同時に注文者に帰属すると考えるべきとの批判も有力になされています。
建前の所有権とその完成
建物の建築に着手した後、不動産として認められる程度(柱や壁・屋根を備えた程度で不動産として認められ、内装の完備まで求められるものではありません。)に至る前の未完成部分を建前といいます。この建前は、土地に定着してはいますが土地には付合せず、不動産でもなく、独立の動産であると考えられています。建前の所有権は、請負人が材料を提供している場合には請負人に帰属します。
ここで、途中で請負人が変わり、建前から別の請負人が建築を継続して建物が完成した場合、判例は加工に関する246条が適用されるといいます(最判昭和54年1月25日)。

(参照 w:加工 (法律)