物権変動とは、所有権などの物権の発生・変更・消滅のことです。ここでは、一般的な物権の変動について学びます。

この講座は、民法 (物権)の学科の一部です。

前回の講座は、物権的請求権、次回の講座は、不動産登記です。

変動の原因 編集

物権を所得する原因として、承継取得と原始取得があります。

承継取得
承継取得は、前主が有する物権に基づく物権の取得のことです。そのため、前主の物権に付着している負担(例えば設定された抵当権)や瑕疵もそのまま移転します。そして、承継取得は移転的承継と設定的承継に区別されます。移転的承継とは、物権が前主から後主にそのまま移転することであり、売買や相続などによるものです。これに対して設定的承継とは、前主の物権の内容の一部を後主が所得することを言い、地上権や抵当権の設定などが挙げられます。
原始取得
原始取得とは、他者の権利によらない物権の取得のことです。そのため、原始取得された物権に抵触する権利は、原始取得とされた趣旨から必要とされる限度において、その反射的効果として消滅することとなります。原始所得の例として、無主物の先占や遺失物拾得、建物の新築、時効による取得、即時取得、添付による取得などがあります。

物権の変更とは、物権の同一性が維持される限度において物権の客体や内容が変更される場合であり、例として建物のリフォームや抵当権の順位の変更などが挙げられます。

物権を喪失する原因として、目的物の滅失や他者への移転、放棄、他者による目的物の原始取得、時効による消滅(所有権以外)、混同などが挙げられます。

物権の放棄は、原則として自由に行うことができますが、他者の権利を害する場合には認められない場合もあります。

混同は、二つの法律上の地位が同一人に帰属した場合で、その双方を存続させる意味がない場合には、一方が他方に吸収されて消滅するものです。所有権は包括的な支配権であり、原則として所有権とその他の物権が同一人に帰属した場合、その他の物権が消滅することとなります(179条1項)。また、所有権以外の物権とその物権を目的物とする他の権利(例えばある土地の地上権と、その地上権に設定された抵当権)が同一人に帰属した場合には、他の権利(抵当権)が消滅することとなります(179条2項)。ただし、その物または当該他の権利が第三者の権利の目的となっている場合には、当該権利を存続させる意味があり、その権利は消滅しないこととなります(179条1項但書および179条2項但書によるその準用)。なお、占有権にはこれらの規定は適用されません(179条3項)。

法律行為による物権変動 編集

意思主義 編集

民法では、176条において「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」と、定めており、原則として物権変動は当事者の意思表示のみにより効力を発生するものとされています。このように意思表示のみによって物権変動を認める考え方を意思主義(物権変動における意思主義)といい、これに対して、何らかの形式を伴うことを必要とするという考え方を形式主義といいます。形式主義は、ドイツなどにおいて採用されています。

意思主義は、当事者の意思のみによって物権が移転する(登記や引渡しなどを必要としない)ため、外部から物権変動があったかどうか分かり難く、その点では形式主義の方が取引安全に資するものといえますが、形式主義によると物権変動のためには形式を備えるための手続きが必要となるため、それが負担となる欠点があります。そのため、意思主義の方が私的自治の尊重には資するものと考えられています。

物権行為の独自性 編集

176条にいう意思表示がどのようなものをいうかには見解の対立があります。

法律行為には、最終的に物権変動の原因となるほか、当事者間に債権債務関係も発生させる債権行為(債権契約。売買契約など)と、物権変動の原因となるだけの物権行為(物権契約。抵当権設定契約など)があると考えられます。

そして、176条のいう意思表示とは、物権変動だけを目的とする意思表示であり、売買契約を成立させるような合意は債権債務関係を発生させるだけであるため、物権変動には債権行為のほかに物権行為が必要であるとする、物権行為の独自性肯定説と、そのような物権行為と債権行為の区別のを無意味なものとし、あるいは区別は認めるものの債権行為の中に当然に物権行為も含まれる(そのため別個の意思表示は必要としない)とする物権行為の独自性否定説があります。

現在の通説・判例では、物権行為の独自性は否定されており、日本の民法においてこれを肯定する意味はないものと考えられています。

物権変動の時期 編集

法律行為により物権が変動するのはどの時点においてかについて、判例では一般的に、物権変動はその原因となる法律行為の成立時点で生じるものとしています。これによると、例えば売買契約ではその合意の時点(特段の合意がない限り、代金支払いや登記・引渡しのときではない)ということになります。

そして、即時に物権変動を認めるのには支障がある場合、例えば目的物が不特定物である場合(例えばビール一本の電話での注文。多くの在庫の中からどの一本を所有権移転するのか、特定されないと移転させられない)や、他人物売買の場合、将来の物の売買(契約後作成される予定の絵など)である場合、などにおいては、その支障がなくなった時点で物権変動が発生するものとしています。また、当事者が合意によって時期を定めた場合には、合意によって定めた時期に物権変動が生じるものとしています。

このような判例に対して、有償契約においては同時履行関係が維持されるべきとする批判や、物権変動の時期をある一つの時点で確定する必要性はないとする批判、あるいは一般的な当事者の意思に合致しないとする批判もなされています。

第三者への対抗 編集

前述のような原因により、法律行為の成立によって物権は変動するものとされていますが、一方で物権の変動が外部から分からない場合には、通常、外観上物権を有すると考えられるものに実際に物権があるものとして第三者は行動することとなります。そこで、このような第三者の信頼を保護し、取引の安全を守るため、不動産については物権変動を公示する方法として登記制度が用意されており、不動産の物権変動についてはそれが登記されていなければ第三者に対抗することができず(177条)、また動産についてはそれが引渡されていなければ第三者に対抗することができないものと定めています(178条)。また、動産については即時取得の制度も定められています(192条)。

なお、登記をしなければ第三者に対抗することができないとはされていますが、これは登記を得れば実際に所有権を得る、ということではありません。これらの対抗要件については、不動産の物権変動及び動産の物権変動の講座で詳しく扱います。

公示の原則と公信の原則 編集

公示の原則とは、物権変動についてそれが公示されていなければ第三者に対抗できない、とするものです。そのため、第三者は公示されていない物権変動をないものとして行動することができます。しかしこれは前述のように、公示されていればその通りの物権変動が認められる、というものではありません。

これに対して、公信の原則とは、公示されていればその通りの物権変動があるものと認められるものです。そのため、第三者は公示の通りの物権変動があるものとして行動することができます。

これを不動産についてみると、登記(不動産の公示方法)で所有者とされていた場合、公示の原則によれば、それが実は真実の所有者でなかったときには、登記の名義人から契約などで所有権を譲り受けた者は無権利者からの譲り受けであり、所有権を得ることはできないできないのに対して、公信の原則によると、それが実は真実の所有者ではなかったときにも、有効に所有権を得ることができることとなります。

その点で、外観を信頼した者の保護や取引の安全ということからすると、公信の原則による方が優れているといえますが、これは逆に言うと公示された内容が間違っていた場合、真の権利者がその意思によらずに所有権などの権利を失うこととなるものであるため、真の権利者の保護という点では問題があるとも考えられます。日本では、動産については公信の原則を採用し、不動産については公示の原則のみを採用しています(不動産登記に公信力は認められていません)。

不動産登記については次回の不動産登記の講座で扱います。

(参照 w:物権変動