公共の危険に対する罪

ここでは、公共の危険に対する罪として、現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪、失火罪、往来妨害罪、往来危険罪、現住建造物等浸害罪などについて扱います。

この講座は、刑法 (各論)の学科の一部です。

前回の講座は、その他の財産に対する罪、次回の講座は、文書偽造罪です。

放火罪・失火罪

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総説

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放火及び失火の罪は、火力の不正な使用によって建造物その他の物件を焼損し、公衆の生命・身体・財産に対し危険を生じさせる犯罪であり、出水の罪や往来を妨害する罪と共に公共危険犯に属し、その保護法益は公衆の生命・身体・財産の安全です。

放火及び失火の罪として、現住建造物等放火罪(108条)、非現住建造物等放火罪(109条)、建造物等以外放火罪(110条)、延焼罪(111条)、現住建造物等放火未遂罪・非現住建造物等放火未遂罪(112条)、放火予備罪(113条)、消化妨害罪(114条)、失火罪(116条)、業務上失火罪・重過失失火罪(117条の2)、激発物破裂罪(117条1項)、過失激発物破裂罪(117条2項)、業務上過失激発物破裂罪・重過失激発物破裂罪(117条2項、117条の2)、ガス漏出等罪(118条1項)、ガス漏出致死傷罪(118条2項)があります。

公共危険犯とは、公衆の生命・身体または財産の安全を保護法益とする犯罪を言い、具体的公共危険犯と抽象的公共危険犯とに分けられます。公共危険の意味については、不特定または多数人の生命・身体または財産に対する危険とするのが通説です。

放火罪は故意犯であり、失火罪は過失犯である。不作為によっても成立します。

焼損とは

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放火罪・失火罪は、焼損によって既遂に達します。ここで、焼損の意義については、様々な見解が主張されています。

  • 火が放火の媒介物を離れ目的物に燃え移り、独立して燃焼する状態に達したとき焼損とする見解(独立燃焼時説)。
  • 火力が目的物の重要な部分を失い、その本来の効用を喪失した時点をもって焼損とする見解(効用喪失説)。
  • 目的物の主要な部分が燃焼を開始した時点(いわゆる燃え上がった時)をもって焼損とする見解。
  • 火力によって目的物が毀棄罪にいう損壊の程度に達したときをもって焼損とする見解。
  • 独立燃焼説を限定的に解して、燃焼に燃焼継続可能性を求める見解。

独立燃焼時説に対しては、放火の既遂時期が早すぎ、特に中止未遂を認める余地が狭すぎることとなるとして批判され、また効用喪失説に対しては、既遂時期が遅すぎ、本罪の公共危険犯的性格と合致するものでないと批判されます。そこで、その中間的な見解が様々に主張されています。

判例は、独立燃焼説をとっているものと考えられ、この立場からは、例えば新聞紙に点火して建造物に放火した場合において、火力が新聞紙を離れて建造物の一部が独立に燃え始めれば既遂となります。そのため、天井板約一尺四方を焼いた例(最判昭和23年11月2日刑集2巻12号1443頁)なども焼損となり、建造物の一部分のみを焼損する目的で放火しても、本罪の故意として十分であるとされます(大判昭和3年2月1日刑集7巻35頁)。もっとも、畳や建具などは建造物の一部ではないため、これが燃えただけでは建造物の焼損とはなりません(最判昭和25年12月14日刑集4巻12号2548頁)。

また、難燃性ないし耐火式建造物の火力による損壊が焼損に当たるかについては、肯定説と否定説の双方が主張されます。肯定説は、有毒ガスの発生など、燃焼と同様の公共危険を生じさせる可能性がある時は焼損とすべきといいますが、焼損というためには何らかの燃焼が必要であるとして、本罪の成立を否定する見解も主張されます。

(参照 w:放火及び失火の罪

現住建造物等放火罪

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現住建造物等放火罪は、人の住居に使用している建造物、または現に人がいるその他の建造物、汽車、電車、艦船もしくは鉱坑を客体とする罪であり、人の生命、身体に対する危険性に着目し、特に重い法定刑が定められています。本罪の客体は、現に人が住居に使用し、または現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船もしくは鉱坑です。

住居

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住居とは、放火の当時、人が起臥寝食の場所として日常使用している場所というのが通説的見解です。また、ここでいう人とは犯人以外の者であり、犯人の家族も含まれます。

昼夜間断なく人がその場所にいるということまでは必要でなく、例えば学校の宿直室のように夜間や休日にだけ使用している場所であっても、日常生活の場所として使用するものであれば住居とされます(大判大正2年12月24日刑録19輯1517頁)。また、判例では別荘も本罪の客体とされています(最決平成9年10月21日刑集51巻9号755頁)が、これには批判もなされています。

官公署・会社・学校等の一部に起臥寝食の場所がある場合、人の生命・身体を害する危険も高く、全体が住居となります(大判昭和14年6月6日刑集18巻337頁)。そして、全体として一個の建造物と言えるかどうかは、建造物の概観・構造・物理的一体性や機能的一体性、延焼の可能性などにより、社会通念上一個の建造物と認められるかどうかの見地から判断なされるべきとされます(最決平成元年7月14日刑集43巻7号641頁(平安神宮))。もっとも、少なくとも物理的一体性は必要との見解も主張されています。

これに関して、判例では離れについて、「被害家屋は甲が住んでいる母屋とは別棟でいわゆる離れではあるが、同人の営業用に使用しているもので同建物には押入れのある座敷があり、その押入れには常に寝具を準備してあって被告人も同建物内に数回寝泊まりした事実、並びに犯行のあった晩も同離れには一人の客が来て使用した事実を認め得る」として、起臥寝食の場所として使用している建物としたものがあります(最判昭和24年6月28日刑集3巻7号1129頁)。

一方、大審院の裁判例(大判大正3年6月9日刑録20輯1147頁)では、官庁の宿直員は執務時間後でも庁舎内を巡視するのが通例であるから宿直室が庁舎と独立した建物内にあっても、その庁舎は人の住居に使用せる建造物であるとしたものがありますが、この判例に対しては、あまりに広範にすぎるとの批判もなされています。

以上に対して、外観上一個の建造物と言い得るような場合においても、延焼可能性などの判断により、一体性を否定した裁判例(仙台地判昭和58年3月28日刑月15巻3号247頁(鉄筋コンクリート10階建マンションにある医院の内部に放火した事例))もあります。

また住居であっても人が現在する可能性が排除されている場合について、本罪の成立を認めるか否かは、見解が分かれます。 この場合に否定すると、犯人が安易に人がいないと思った場合にも、故意が阻却されることとなるとして本罪の成立を肯定する見解が主張される一方で、本罪の重い処罰根拠である内部の人に対する危険を認めることができないとして、否定する見解も主張されています。

現在性

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住居として使用されていない建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑については、現に人がいる場合に本罪の客体となります。現に人がいる、とは、放火行為の時点においてその内部に他人が現実にいることを要します。建造物の用途や、建造物が行為者の所有物件であるか否かにかかわりなく本罪の客体となる。

なお、一間半四方藁葺き藁囲いの掘立小屋も建造物であるとした裁判例(大判昭和7年6月20日刑集11巻881頁)があり、またガソリンカーも汽車・電車の中に含まれると考えられます。

故意

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本罪の行為は放火であり、焼損により既遂に達します。その故意には、他人が現に住居として使用していること、または現に人がいる建造物などであることの認識と、その客体を焼損することの認識が必要です。もっとも未必的な認識で足ります。

直接の放火の対象が非現住建造物であっても、それにより隣接する現住建造物を焼損させることを予見していた場合には、本罪の故意が認められます(大判昭和8年9月27日刑集12巻1661頁)。

(参照 w:現住建造物等放火罪

非現住建造物等放火罪

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非現住建造物等放火罪は、現に人の住居に使用されておらず、しかも、現に人がその内部にいない建造物・艦船・鉱坑を焼損することで成立する犯罪です。建造物について、裁判例(東京高判昭和28年6月18日東時4巻1号5頁)では、豚小屋に放火した事案について、いわゆる建造物たるには、人の起居出入りに適する構造を有するものでなくても、土地に定着し、人の起居または出入りし得るものであれば、これに該当するものと解されるのであるが、同条の立法趣旨から見ても、それは人の起居または出入りすることが予定されている建物であることを前提としているのであって、性質上人の起居または出入りが全く予定されていないものは同条にいわゆる建造物には該当しない、としています。

他人所有非現住建造物等放火罪(109条1項)でいう人とは、犯人以外の者を言います。また、自己の所有物であっても、115条により、一定の場合には他人の所有物と同様に扱われることとなります。自己所有非現住建造物等放火罪(109条2項)は、行為者が目的物の所有権を有している場合と、また本罪は財産犯的性格を考慮したものであることから、無主物に対する放火の場合とが含まれるものと考えられます。

行為

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火を放って目的物を焼損することである。もっとも、1項の他人所有非現住建造物放火罪は、抽象的危険犯であるため焼損の結果を生ずれば既遂に達するのに対し、2項の自己所有非現住建造物放火罪は、具体的危険犯であるとされるため、焼損によって具体的に公共の危険が発生しない限り既遂に達しません。

公共の危険の発生とは、一般不特定の多数をして、所定の目的物に延焼しその生命・身体・財産に対し危害を感ぜしめるにつき相当の理由がある状態をいうものとされてきました(大判明治44年4月24日刑録17輯655頁)。これに対し、近時の判例(最決平成15年4月14日刑集57巻4号445頁)では、延焼の危険のみに限られるものでなく、不特定または多数の人の生命・身体または財産に対する危険も含まれるとして、公共危険の意義を拡張する判断を示しています。

ここで、科学的には延焼の危険が存在しない場合について、一般人の判断を基準としてその危険を感じる程度であれば、公共の危険の具体的発生が認められるとする見解が主張される一方で、やはり具体的危険は存在しないとする見解も主張されます。

故意

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自己所有非現住建造物放火罪については、上記のように公共の危険の発生が必要となりますが、それが故意の内容として必要であるかについては、見解の対立があります。

多くの学説では、責任主義から、重い違法・責任を基礎づけるためには公共の危険の発生に関する認識も必要としていますが、これに対して公共の危険の発生とはつまり延焼の危険であるが、延焼について故意があれば、108条、109条1項の罪が成立するため、本罪の意味がなくなるのではないかとして批判もなされ、不要と解する見解も主張されます。

(参照 w:非現住建造物等放火罪

建造物等以外放火罪

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108条、109条以外の客体、すなわち、建具や自動車、航空機、橋、廃棄物などが本罪の客体となり、これらに放火した場合に、公共の危険が発生したとき、本罪が成立します。本罪も具体的危険犯であると解され、自己所有非現住建造物放火罪と同様、故意等が問題となります。

(参照 w:建造物等以外放火罪

延焼罪

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延焼罪は、自己所有物件に対する放火罪の結果的加重犯であり、本罪における放火の客体は、自己所有の非現住建造物等または自己所有のその他の物であり、結果として生ずる延焼の客体は、現住建造物等または他人所有非現住建造物等です。

延焼とは、行為者が予期しなかった物に燃え移って、これを焼損することです。目的物の焼損と延焼の結果との間には、因果関係が必要となります。115条に規定される自己所有物件に延焼した場合に、本罪の適用があるか否かについては、111条に明文の規定がなく、肯定説と否定説との両説が主張されています。

消火妨害罪

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消化妨害罪は、火災の際に消火用の物を隠匿し、損壊し、またその他の方法により消火を妨害した場合に成立します。本罪は、抽象的危険犯と解されます。

火災の際に、とは、現に火災が発生している状況であることを要します。本罪の性質上、火災は公共危険の発生に至り得る場合でなければ成立しないと考えられます。

放火した者が消火活動を妨害したときには、それにより生じる公共の危険の発生はすでに放火罪によって評価し尽くされているため、本罪は放火罪に吸収されます。

(参照 w:消化妨害罪・水防妨害罪

失火罪

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総説

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失火罪は、116条において、他人所有建造物等失火罪(116条1項)と、自己所有非現住建造物等失火罪(116条2項)とが定められています。

他人所有建造物等失火罪の客体は、108条に規定される現住建造物等及び109条に規定される他人所有非現住建造物です。またその行為は、過失により客体を焼損させることです。抽象的危険犯とされており、現実に公共の危険が発生したか否かを問いません。

自己所有非現住建造物等失火罪の客体は、109条に規定される自己所有の建造物等及び、110条に規定される建造物以外の物であり、後者は他人の所有に属するものであっても、本罪の客体となります。公共の危険の発生が必要である具体的危険犯と解されています。

業務上失火罪

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本罪は、業務上必要な注意を怠って116条の罪を犯した場合にその刑を加重するものであり、身分犯です。ここで、一般に業務とは、人が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行う事務を言うとされていますが、火気の取り扱い(例えば料理や喫煙)は日常生活上多くの者が反復・継続して行っており、これらすべてを業務上失火罪の対象とすることは適当でないため、本罪にいう業務は、特に職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位に基づく事務を言うものと解されます(最決昭和60年10月21日刑集39巻6号362頁)。

また、業務性は火気を直接取り扱う職務だけでなく、火気発生の蓋然性が高い物質・器具を取り扱う職務や、火災の発見・防止を任務とする職務の者についても認められます。判例では、夜警の職務に従事する者(最判昭和33年7月25日刑集12巻12号2746頁)や、組み立て式サウナ風呂の開発・製作担当者(最判昭和54年11月19日刑集33巻7号728頁)などについて業務性が認めています。

激発物破裂罪

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激発物とは、急激に破裂し、生命・身体・財産に危害を加える程度の破壊力を持つ物質を言います。火薬、ボイラーはその例示であり、そのほか高圧ガスなども本罪でいう激発物となります。

本罪の行為は破裂であり、破裂とは、その破壊力を解放する一切の行為を言います。そして、本罪の成立には、建造物等を損壊するという結果の発生が必要です。

本罪が成立すると、その目的物の相違に応じて、放火罪のそれぞれの法定刑が適用されることとなります。

激発物に関する特別法として、爆発物取締罰則や、高圧ガス保全法、破壊活動防止法、火薬類取締法、軽犯罪法などがあり、これらの適用も問題となる。

(参照 w:激発物破裂罪

ガス漏出罪・同致死傷罪

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本罪に列挙される行為は、いずれも公共の危険をもたらす点で放火に準ずべきものとされたものであり、1項の罪は、具体的危険犯と解されます。また2項の、ガス漏出等致死傷罪は、その結果的加重犯です。

(参照 w:ガス漏出等罪

往来妨害罪

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総説

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往来を妨害する罪は、道路、鉄道、船舶の交通の安全を保護法益とする犯罪です。交通を妨害されるときには、公衆の生命・身体・財産が危険にさらされるため、本罪は公共危険犯の性質を備えているものと解されています。

往来を妨害する罪としては、往来妨害罪(124条1項)、往来妨害致死傷罪(124条2項)、往来危険罪(125条)、汽車等転覆・破壊罪(126条1項)、汽車等転覆・破壊致死罪(126条2項)、往来危険汽車等転覆・破壊罪(127条)、往来妨害未遂罪、往来危険未遂罪、汽車等転覆・破壊未遂罪(128条)、過失往来危険罪(129条1項前段)、過失汽車等転覆・破壊罪(129条1項後段)、業務上過失往来危険罪(129条2項)、業務上過失汽車等転覆・破壊罪(129条2項)があります。これらは、交通の安全を害するもののうち重要なものに限られており、他に特別刑法によって多くの交通犯罪が定められています。なおこれらは制定時において重要とされたものであり、そのため航空機の交通の安全について規定はありません(現在は特別法によって定められています)。


往来妨害罪

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本罪の客体は、陸路・水路・橋です。公衆の用に供すべきものであることを要しますが、公有か私有かは問われません。陸路とは、公衆の通行の用に供すべき陸上の通路、すなわち道路を言います。事実上公衆の用に供せられていれば足ります。鉄道は往来危険罪の客体となっており、本罪の客体には含まれません。水路とは、船などの航行に用いられる河川、運河、港口などを言います。海路・湖沼の水路も損壊・閉塞し得るものは本罪の水路となります。また橋は河川・湖沼に架けられたもののほか、陸橋や桟橋も含みます。

行為は、陸路などを損壊・閉塞して、往来の妨害を生じさせることです。損壊・閉塞以外を含まず、偽計(虚偽の看板を立てるなど)により通行を妨害しても本罪は成立しません。

損壊とは、通路の全部または一部を物理的に毀損することを言い、心理的な通行不能を含みません。閉塞とは、障害物をおいて通路を遮断することを言い、障害物が通路を部分的に遮断するにすぎない場合であっても、その通路の効用を阻害して往来の危険を生じさせたときには、陸路の閉塞にあたります(最決昭和59年4月12日刑集38巻6号2107頁)。

本罪が既遂に達したというためには、損壊または閉塞の結果、通行を不可能または困難にする状態を生じさせる必要があります。しかし、実際に誰かが通行を妨害されたということは必要でありません。

往来妨害致死傷罪

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往来妨害致死傷罪は、往来妨害罪の結果的加重犯であり、往来妨害罪が成立し、その結果として人を死傷させたことにより成立します。基本犯には未遂犯が含まれておらず、その点で強制わいせつ等致死傷罪などと異なり、損壊・閉塞の行為自体によって致死傷の結果を生じさせた場合には、本罪には当たらないと解されます。また、ここで言う人とは通行人に限られず、犯人以外のすべての者をいいます。

往来危険罪

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往来危険罪は、鉄道またはその標識を損壊し、またはその他の方法で汽車または電車の往来の危険を生じさせること、および灯台・浮標を損壊し、またはその他の方法で艦船の往来の危険を生じさせることを内容とする犯罪です。その保護法益は、汽車・電車及び艦船の往来の安全です。

鉄道とは、線路のみならず汽車、電車の運行に直接必要な一切の施設をいいます。枕木、犬釘、トンネルも鉄道に含まれます。

その他の方法とは、汽車・電車の往来の危険を生じさせる一切の行為を言い、例えば軌道上に石などの障害物を置くことや、無人電車を暴走させる行為(最判昭和30年6月22日刑集9巻8号1189頁)も含まれます。

本罪が既遂となるのは、汽車・電車または艦船の往来の危険が生じたときです。具体的危険犯であると解されており、危険は、安全なる往来を妨害すべき結果を発生せしむるべき可能性が認められれば足ります。具体的危険を生じさせるに足る行為に着手したが、具体的危険が生じなかった場合には未遂となります。

本罪の故意は、人の現在する汽車・電車・艦船につき、脱線・転覆・衝突などの実害を発生させる具体的危険の認識を必要とします(最判昭和36年12月1日刑集15巻11日1807頁)。

汽車転覆等罪

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本罪の客体は、現に人がいる汽車・電車・艦船です。人とは犯人以外のものをいいます。

「現に人がいる」の意義については、以下の各説が主張されます。

  • 実行の開始時に人が現在することを必要とする説。判例の立場です。
  • 結果発生時に人が現在することを必要とする見解。
  • 実行着手時から沈没などの結果発生時までの間において、そのいずれかの時点において人が現在していれば足りるとする見解。

汽車・電車の転覆とは、転倒、横転、転落を言い、脱線は含まれません。また艦船の場合、座礁それ自体は転覆などには該当しませんが、破壊にあたる場合はあります(最決昭和55年12月9日刑集34巻7号513頁)。

一般に破壊とは、汽車・電車・艦船の実質を害して、その交通機関としての用法の全部または一部を不能にする程度の物理的損壊をいいます。

本罪の故意は、汽車・電車・艦船に人が現在することの認識、及び転覆・沈没・破壊についての認識を必要とします(大判大正12年7月3日刑集2巻621頁)。

汽車転覆等致死罪

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本罪は汽車転覆・破壊罪の結果的加重犯であり、人の現在する汽車・電車の転覆・破壊、艦船の転覆・沈没・破壊の結果として人を死亡させたことが必要です。

汽車転覆等罪が未遂に終わった場合には本罪の適用はありません。そのため、転覆・破壊等の行為自体から人の死亡が生じた場合には、本罪は成立しないと解されます。

傷害が生じた場合については、傷害の点は規定の性質・法定刑からみて汽車転覆等罪に吸収されるとする見解と、汽車転覆等罪と傷害罪または過失傷害罪の観念的競合となるとする見解とがあります。

また、「人を死亡させたもの」の人の範囲について、汽車・艦船などに現在した人に限るとする見解と、車船内に限らず、その周囲にいるものも含むとする見解があります。後者が判例・通説の立場です。

殺人の故意がある場合には本罪のみが成立し、殺人が未遂に終わった場合には刑の権衡上汽車等転覆罪と殺人未遂罪の観念的競合となると考えられます。

往来危険による汽車転覆等罪

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本罪は往来危険罪の結果的加重犯であり、126条の汽車転覆等罪の場合と同様に処罰されます。

汽車等に人が現在することの必要性については見解が分かれています。必要説は、「126条の例による」ことから、人の現在性を前提としていると解します。これに対し、不要説は往来危険行為が汽車等の転覆・破壊などの危険を伴う性質を有すること、また法文上要求されていないことを根拠とします。不要説が判例の立場です。

126条3項の適用があるか否かについては、適用されるという肯定説が通説ですが、否定する見解も主張されています。判例(最大判昭和30年6月22日刑集9巻8号1189頁)は、前条の例に同じと規定しているのは、文理上当然に前条3項を除外しない趣旨であると共に、125条の行為は、本質上、汽車・電車の転覆・破壊、ひいては人の致死などの惨劇を発生させる危険を含むから、その結果を生じた以上実質的にも、前条の各項と同じく処罰しても差し支えないとしています。

過失往来危険罪、過失汽車等転覆罪

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過失往来危険罪は過失によって汽車等の往来の具体的危険を発生させることによって成立する犯罪です。過失汽車等転覆罪は過失によって現実に汽車等転覆・沈没・破壊の結果が生じたときに成立する犯罪です。人が現在するか否かを問いません。これらの過失犯が業務者である場合、その身分による加重犯として、業務上過失往来危険罪、業務上過失汽車等転覆罪が成立します。

これらの結果、人を死傷させたときは過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪との観念的競合となります。

(参照 w:往来妨害罪

出水及び水利に関する罪

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出水及び水利に関する罪は、水力により建造物等を浸害すること、及び水害における危険を生じさせる犯罪であり、社会的法益に対する罪です。規定形式は放火及び失火の罪と類似しており、現住性や公共の危険などの解釈は放火及び失火の罪についてのものと同様に解されています。

(参照 w:出水及び水利に関する罪w:現住建造物等浸害罪w:非現住建造物等浸害罪