ここでは、物の貸借に関する契約一般についてと、消費貸借契約、使用貸借契約について扱います。

この講座は、民法 (債権各論)の学科の一部です。前回の講座は担保責任、次回の講座は賃貸借です。

貸借型の契約

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総説

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民法では、物の貸借を内容とする契約として、消費貸借、使用貸借、賃貸借の3種類の契約を定めています。

消費貸借
消費貸借とは、借主が貸主から金銭その他の物を受け取り、それを消費し、その後借りた物と同種・同等・同量の物を返還するものであり、金銭消費貸借(つまり借金)が典型例です。金銭以外についても成立しないわけではなく、米や小麦、ガソリンなどについてこれを消費した後で同種・同等・同量の物を返還することが考えられます。
使用貸借
使用貸借は、借主が物を無償で使用収益し、その後これを返還するというものです。例えば無償で本を借りる場合などが考えられます。
賃貸借
賃貸借は、借主が物を有償で借りて使用収益し、その後これを返還するというものです。例えば月額10万円でアパートを借りる場合などが考えられます。

民法では、消費貸借と使用貸借は要物契約であり、賃貸借は諾成契約とされています。そのため、消費貸借と使用貸借は片務契約であり、賃貸借は双務契約となります。もっとも、諾成的消費貸借契約も認められており、諾成的消費貸借契約は双務契約となります。使用貸借と賃貸借の違いは有償か無償かの違いです。

貸借型理論

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貸借型の契約については、実務において貸借型理論と呼ばれる理論が展開されています(学説上支持されているというわけではありません)。

履行期について、以前の売買・贈与の講座で扱ったように、売買契約などにおいては履行期は契約の本質的な要素ではなく、法律行為の附款という地位を有するに過ぎません。そこで、売買契約の成立を主張する者は履行期の合意を主張する必要はありません。しかし貸借型の契約については、一定の期間借主に利用させることに特色があり、契約の目的物を受け取るや否や直ちに返還すべき貸借というのはおよそ無意味であるから、貸借型の契約においては、返還時期の合意はその契約の不可欠の要素であると解すべきであり、したがって貸借型の契約の成立を主張する者は、返還時期の合意について主張立証する必要がある、といいます。

そして、貸借型契約の成立を主張する者は履行期の合意を主張・立証する必要があり、履行期が定められていない場合には貸借型の契約の成立自体が認められない以上、いわば一見合意がない場合であっても、履行期は貸主の催告後相当期間が経過した時とする(591条1項項と同内容)などといった履行期の合意があったというのです。

消費貸借

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要物性

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消費貸借については、587条において、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」と定められており、貸主から金銭その他の物を受け取ることにより成立する要物契約です。契約が成立したときには、貸主から借主への目的物の交付は既に完了しており、貸主の貸す義務を観念することはできず、借主の返す義務だけを内容とした片務契約となります。

このように、消費貸借契約が要物契約として定められたのは、ローマ法以来の沿革に由来するものですが、要物契約とする必要はないとの批判も早くからなされてきました。民法でも、589条において消費貸借の予約が認められており、民法上も貸す義務を観念することが否定されておらず、要物契約性は貫かれていません。また消費貸借契約を要物契約としたのでは実務上不便が生じることとなります。

そこで、現在の学説では、多くが当事者の合意によって諾成的消費貸借契約を締結するのを否定すべき理由はないとして、諾成的消費貸借を肯定しています。これは、一種の無名契約として諾成的消費貸借契約を認めるものと考えられますが、結局は無名契約として諾成的消費貸借を考えているのではなく消費貸借の成立要件から目的物の交付を除き、要物性を廃止しているとの指摘もなされています。

また、要物契約である消費貸借契約についても、その要物性が緩和され、あるいは抵当権の付従性の緩和が図られて、実務上の不都合が回避されています。要物性などが問題となった場面としては以下のようなものがあります。

金銭の交付に先立つ公正証書作成
まず、契約内容を公正証書として作成してから、金銭を交付するという場合があります。このようにすることで、貸主としては確実に公正証書を作成し、公正証書による執行力を確保したいという実務上の要請があります。しかし消費貸借契約の要物性を徹底すると、公正証書作成の段階で契約は成立しておらず、そのような公正証書が有効なのかが問題となります。これについて、公正証書に示された請求権と消費貸借契約上の請求権との同一性が認められれば、公正証書の執行力を肯定できるものと解されています(大判昭和8年3月6日民集12巻325頁、大判昭和11年6月16日民集15巻1125頁)。
金銭の交付に先立って設定された抵当権
上と同様に、確実に抵当権を設定して担保を確保するため、金銭の交付前に抵当権の設定をし、その登記を行うことがあります。しかし、要物契約であることからすると、金銭の交付前には被担保債権は成立しておらず、問題となります。これについても、抵当権設定の手続きが債務の発生と同時であることは必要ではなく、抵当権設定者が将来発生すべき債務を担保する意思で抵当権を設定する場合には、金銭の貸借に先立ってあらかじめ抵当権設定の手続きをするのは法律が禁止するところではなく、その抵当権は後に発生した債務を有効に担保するものと解されています(大判明治38年12月6日民録11輯1653頁、大判大正2年5月8日民録19輯312頁)。

また、交付された物が金銭と同視できるものであれば交付があったと考えられ、国債の交付(大判明治44年11月9日民録17輯648頁)や預金通帳と引き出しのための印章の交付(大判大正11年10月25日民集1巻621頁)により交付が認められています。これに対して約束手形が交付された場合については、いつの時点で交付と認めるか見解が分かれており、借主が割引によって銀行から金銭の交付を受けたときと考える見解(大判大正14年9月24日民集4巻470頁参照)と、手形交付時と考える見解とがあります。

借主の返還義務

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借主は、合意された時期に、同種・同等・同量の物を返還しなければなりません。また、利息が定められた場合にはその利息も支払わなければなりません。同種・同等・同量の物の返還ができない場合には、返還が不可能となった時点の物の価額を償還しなければなりません(592条本文)。

外国の通貨で借りた場合にも、借主は日本の通貨で弁済することができ(403条)、また貸主も日本の通貨での支払いを求めることができます。

消費貸借については、履行期の合意がないときについて特別の規定がおかれており、貸主が返還請求をするときには相当の期間を定めて催告し、その期間の経過によって返還義務の履行遅滞が生じることとされています(591条1項)。これは、貸した物は消費されていることから、請求と同時に履行遅滞に陥るという412条3項の規定を改めたものです。また借主はいつでも返還することができます(591条2項)。

準消費貸借

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準消費貸借とは、金銭その他の代替物を給付する債務があるときに、これを債権者と債務者との合意によって消費貸借契約上の債務とすることです([[b:民法第588条|588条])。例えば複数の未払いの売買代金債務について、これを一つの消費貸借上の債務とする場合などがあります。また既に存在している消費貸借上の債務を新たな消費貸借上の債務とすることもできます(大判大正2年1月24日民録19輯11頁)。物の接受はありませんが、これによって消費貸借契約は成立したものとみなされます。

基礎となる債務が存在していない場合には、準消費貸借も成立しません。しかしその主張立証責任については、判例(大判大正9年5月18日民録26輯823頁、最判昭和43年2月16日民集22巻2号217頁)では、準消費貸借契約成立に関しては、一般に旧債務に関する証書が新債務に関する証書に書き換えられ、旧証書は破棄され、しかも、新証書が旧債務を表示しないで新たな貸借が行われたような記載がされている場合が多く、このような場合には新証書によって旧債務の存在を事実上推定するわけにはいかないから、旧債務存在の立証が困難であることは否定できないとして、立証の難易を考慮し、準消費貸借の効力を争う側に旧債務付存在の事実についての立証責任を負担させるべきであるとしています。そこで、旧債務の不存在は準消費貸借契約の不成立を主張する側が主張立証することとなります。これに対して、旧債務の発生や準消費貸借契約時の現存が準消費貸借契約の成立要件となるとの見解も主張されています。

消費貸借の予約

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消費貸借の予約とは、消費貸借契約を成立させるべき債務を負担することを内容とする貸主・借主間の契約のことです。利息付金銭消費貸借の予約では、これは有償契約であることから、559条により556条の売買の予約の規定が準用され、予約完結の意思表示がなされれば諾成的消費貸借契約が成立します。また、将来本契約たる消費貸借契約を締結するべき義務を課す契約もでき、その場合には本契約たる消費貸借契約を締結する合意をし、目的物を交付することで消費貸借契約が成立します。

これに関するものとして、特定融資枠契約(コミットメントライン契約)があります。これは、金融機関が企業から手数料の支払いを受けるのと引き換えに、企業が一定期間、一定金額までの金銭を借り入れることができる融資枠を設定し、その範囲内であれば金融機関が企業の請求に応じて融資を行う義務を負う契約です。金融機関は、融資をしなくとも手数料が得られ、貸出金を削減することができ、企業は融資枠の範囲内で確実に資金調達が可能となるため、過剰に借入金を確保しておく必要が無くなります。このような特定融資枠契約については、特定融資枠契約に関する法律が定められており、この契約を締結した企業は、相手方である金融機関に対し、金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を取得します(特定融資枠契約に関する法律2条)。この権利は予約完結権であり、これが行使されると消費貸借契約が成立し、金融機関は貸す義務を負うこととなります。

(参照 w:消費貸借w:コミットメントライン

使用貸借

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総説

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使用貸借については、593条において、「使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」と定められており、借主から無償で使用収益をした後に返還することを約束して、物を受け取ることで成立する要物契約です。契約が成立したときには、貸主から借主への目的物の交付は既に完了しており、貸主の貸す義務を観念することはできず、片務契約です。

無償契約

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無償であることが使用貸借と賃貸借とを区別していますが、完全に何の負担もないことまでは必要と考えられておらず、対価といえるほどのものでなければ使用貸借となります。例えば簡易な事務の負担を負っている場合(最判昭和26年3月29日民集5巻5号177頁)や公租公課の負担がなされている場合(最判昭和41年10月27日民集20巻8号1649頁)、家賃が支払われていても通常の家賃に比して著しく低く、謝礼の意味を持つだけのものと考えられる場合(最判昭和35年4月12日民集14巻5号817頁)について、使用貸借であると判断されています。

使用貸借であれば借地借家法の適用がなくなるため、対抗要件や存続期間・更新拒絶の可否などについて、建物の貸借などにおいて重要な差異が生じることとなります。

効果

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借主は、使用貸借の目的物を使用収益することができます。ただし、借主は契約や目的物の性質により定まった用法に従い目的物を使用収益しなければなりません(594条1項)。ここには目的物の保管についての善管注意義務(400条)も含まれます。また借主は貸主の承諾なしに第三者へ目的物を譲渡、転貸、さらには事実上使用させることもできないとされています(594条2項)。

借主がこれらの義務に違反した場合、貸主は契約の解除をすることができます(594条3項)。この場合催告は不要です。また、これによる損害賠償を請求することもできます。ただし損害賠償請求は、目的物の返還を受けた時から1年以内にしなければならず(600条)、これは除斥期間と考えられています。

貸主は、既に目的物を貸しており、貸す義務は負いません。借主の使用収益をする権利の対応して、貸主は目的物を使用収益させる義務を負うこととなりますが、この義務は、借主の使用収益を妨げないという不作為義務(受忍義務)にとどまり、賃貸借契約の場合のような、使用収益に適した状態にするという積極的義務を負うものではありません。

担保責任については、無償契約であることから贈与に関する551条の規定が準用されています(596条)。そこで、貸主は目的物の瑕疵について原則として責任を負わず、貸主が目的物の瑕疵を知っていながらこれを告げなかった場合にのみ、責任を負うこととなります。

費用の負担

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借主は、必要費のうち、通常の必要費を負担します。通常の必要費とは、目的物の平常の保管や使用に要する費用のことであり、公租公課や電気代、小修繕に要する費用などが含まれます。

借主は、これ以外の費用、すなわち、非常の必要費および有益費について負担します。非常の必要費とは、台風や地震などの通常でない事態が生じた結果として必要となった修繕費などの費用のことであり、有益費とは、目的物を改良するための費用のことです。

ただし、非常の必要費が必要となった時には、借主は貸主にその状況を通知する義務があると考えられています。また、借主が非常の必要費や有益費を負担した場合、借主は595条2項が準用する583条2項により、196条に従って貸主に対して費用の償還を請求することとなります。そこで有益費については、貸主は現実に支出された費用と現存する価値の上昇分(増価額)のどちらを償還するか選択することが出来ます。

借主の貸主に対する費用償還請求も、貸主が目的物の返還を受けた時から1年以内にしなければならず(600条)、この期間は除斥期間と考えられています。

使用貸借の終了

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使用貸借は、存続期間の満了によって終了します。存続期間が特に定められていない場合であっても、使用収益目的が定められている場合には、その目的に従い使用収益を終了した時(597条2項本文)、あるいは使用収益をするのに足りる期間の経過をし、借主の返還請求を受けた時(597条2項但書)には、使用貸借は終了します。期間や目的の定めがない場合には、貸主はいつでも借用物の返還を請求できます(597条3項)。

また、使用貸借は無償契約であり、貸主が借主との間の人間関係などの特別な関係によって設定されるのが通常である点を考慮し、使用借権は賃借権と異なり相続されず、借主が死亡すれば契約は終了するものとされています(599条)。もっともこの599条は任意規定であり、これと異なる合意は有効です。一方、借主が死亡した場合、使用貸借の存続に影響はありません。

使用貸借が終了すると、借主は目的物を原状に復して貸主に返還しなければなりません。ここで言う原状とは契約締結時の状態を意味するものではなく、合理的な使用収益を行った後の状態と考えられます。そこで、そのような状態であればそのまま返還すれば足ります。借主は目的物に付加した物を、収去可能なことを前提として、収去することができます(598条。借主の収去権)。なお貸主は原状回復義務の一態様として、付加物を収去するよう求めることができ(借主の収去義務)、結局、借主が収去を欲せず、貸主も収去を求めない場合にのみそのまま返還することとなります。

(参照 w:使用貸借