ここでは、行政行為について、その意義や効力(公定力、不可争力など)、附款などについて扱います。なお、行政裁量については、行政裁量の講座を参照してください。

この講座は、行政法の学科の一部です。

行政行為とは 編集

行政行為とは、行政活動の基本的な行為形式であり、行政主体と私人の法律関係に関わり、行政庁が私人に対して公権力の行使として、一方的行為としてなされる特別の行為形式です。実定法上では類似のものとして処分の用語が用いられており、行政処分という言い方がなされることもあります。法律上定められている処分と行政行為とは完全に一致するわけではありませんが、処分の概念はその周辺部分の広狭はあるものの、行政行為を中核とするものであり、概ね、これらの概念は一致するといえます。なお行政行為の概念は、私人間における行為形式である契約に対応する形で、行政の主たる行為形式として学問上形成されたものです。

行政行為は、「行政庁が法律に基づき、公権力の行使として直接個人の権利義務を規律する行為」などと一般に定義されます。また判例では、行政庁の処分につき「公権力の主体たる国または地方公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」としています(最判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁)。

法律による行政の原理に基づき、行政行為を行うには法律の根拠が必要であり、その行為の内容も法律によってあらかじめ規律されなければなりません。行政行為は、以下のような特徴を持つ行為です。

  • 行政府(行政機関)の行為であること
  • 外部に対して行われる対外的行為であること
  • 事実行為(行政指導や行政上の強制執行、公共事業など)ではなく法行為であること
  • 公権力の行使たる行為、すなわち行政庁の一方的判断によって権利義務関係を決定する行為であること
  • 具体的な規律を加える行為であること

分類 編集

行政行為の類型は、極めて多様であり、基準により様々に整理されています。また、行政行為の中にはそれらの分類のいずれにもうまく当てはまらないものもあり、類型化は網羅的になされているわけではありません。

一つには、侵害的行政行為と授益的行政行為という、相手方に対して不利益を与えるか、あるいは利益を与えるかを基準とした区別があります。侵害的行政行為(侵益的行政行為、負担的行政行為、不利益処分)とは、相手方に不利益を与えるものであり、下命・禁止や受益的行為の取消・撤回がこれに該当します。授益的行政行為(授権的行政行為)とは、相手方に利益を与えるものです。

また、行政行為はその内容により、命令的行為と形成的行為に分けられ、人の自然に有する自由に対する規律である命令的行為には下命、許可、免除があり、人に新たな権利・能力を付与する形成的行為には、認可、特許があります。

下命・禁止
下命とは、相手方に対する一定の作為・給付または受忍の義務の発生を法効果とする行為であり、禁止とは、相手方に対する一定の不作為の義務の発生を法効果とする行為です。
許可・免除
許可とは、法令による相対的禁止を特定の場合に解除することを法効果とする行為であり、免除とは、法令による作為・給付、受忍の義務を特定の場合に解除することを法効果とする行為です。これらは、本来持っていた自由を回復するものであり、権利を発生させるものではなく、そのため許可を受けたものが第三者に対する許可を行わないことを請求したり、その取消を求める権利を有するものではありません。一方で、これは自由権としての保障を受けます。もっとも、このような伝統的理解にうまくなじまない許可も少なくなく、許可・特許のいずれとも解することができるような行為もあります。
認可
認可とは、他の法主体の法行為の効力を補充して、その効力を完成する行為です。他の法主体相互間での法行為の発生を、立法政策的考慮によって行政の意思によらせることで、行政が介入する一つの手段であり、この認可の性質からすると、基本的には無認可認可は無効となるものと考えられます。
特許
特許とは、国民に対し国民が本来有しない権利や特別の能力を付与する行為です。特許により設定される法的地位は第三者との関係で権利としての法的保障を受け、一方でこれは自由権ではなく一種の特権であって、強く保障されるものではありません。

効力 編集

行政行為の特殊な効力として、公定力、不可争力、執行力、不可変更力・実質的確定力が問題となります。

公定力 編集

判例は、「行政処分は、例え違法であってもその違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解するべき」としています(最判昭和30年12月26日民集9巻14号2070頁)。

これを行政行為の効力として表現したのが公定力であり、行政行為は仮に違法であっても、取消し権限のある国家機関によって取り消されるまでは、何人もその効力を否定できません。行政行為の有効・無効につき私人の側から争う場合には、基本的に取消訴訟等を通じて判断されなければならず、取消訴訟などの結果として処分が取り消されるまでは、当該行政行為は有効なものとして扱われることとなります。

公定力の根拠としては、取消訴訟を定める行政事件訴訟法の存在にその根拠を求めるという、形式的な思考によってこれを正当化するのが現在の通説的見解となっています。すなわち、処分に何らかの違法がある時にはもっぱらこの手続きによることを想定しており、それ以外の訴訟類型では処分の有効性を争うことが排除されるため、このような公定力が認められると考えらるのです。これは、取消訴訟の排他的管轄と表現されます。そこで取消訴訟などによって取消されない限り「有効と取り扱われる」のです。

またこのように考えると、公定力は、以上のような取消訴訟の対象となる取消事由たる瑕疵がある場合に働くものであって、無効事由たる瑕疵のある場合には、取消訴訟を提起する必要はない以上、公定力は問題とならずその行政行為の効力を無効と判断することができるものと考えられます。判例は重大明白性説に立ち、その瑕疵が重大かつ明白である場合には無効事由となるものとしており、またここでいう明白性とは、何人の判断によっても同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを指すという、外観上一見明白説の立場を採っています。これに対し、明白性はその内容が不明確なこともあって、重大な瑕疵であれば無効事由となり、明白性を必ずしも要しないとの見解も主張されます。

なお、軽微な瑕疵については、取消事由ともならないものと考えられます。

公定力に関する個別の類型 編集

刑事訴訟
刑事訴訟においては、被告人に行政行為の取消訴訟定期の負担を負わせることは妥当でなく、刑事訴訟に公定力を持ち出すことはそもそも適当でないものと考えられます。
国家賠償請求訴訟
国家賠償請求訴訟において問題となるのは法効果ではなく、金銭賠償を求める前提としての違法性にすぎない(行政行為の効力まで否定する必要はない)として、取り消し訴訟を経ることなく行政行為の違法性を主張することは可能とされています。
特許の無効について
特許については、特許無効審判から審決取消訴訟というのが定められたルートですが、特許の無効審判が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効の理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができるとし、特許に無効理由が存在することが明らかである場合には、その特許権に基づく差し止めまたは損害賠償等の請求は権利濫用にあたり許されないとした判例(最判平成12年4月11日民集54巻4号1368頁(キルビー判決))があります。

不可争力 編集

不可争力とは、一定期間を経過すると、私人の側から行政行為の効力を争うことができなくなるという効力をいい、形式的確定力ともいわれます。不可争力は出訴期間の限定(行政事件訴訟法14条)による結果として認められるもので、行政上の法律関係を早期に安定させるという趣旨に基づくものです。

不可変更力 編集

不可変更力とは、一度行った行政行為について処分庁は自ら変更できない効力をいい、異議申立てに対する決定、審査請求に対する裁決等の争訟裁断的性質を持つ行政行為に認められます。もっとも、このような効力をどの範囲で認めるかについて定説となっているものはありません。

この不可変更力や、あるいはその処分庁だけでなく上級庁・裁判所も取消し・変更できないと認められる場合の不可変更力のことを、実質的確定力ということがあります。

執行力 編集

行政行為の内容を行政権が自力で実現することのできる効力を執行力といいます。かつては、包括的な執行権限を認める行政執行法があったのですが、現在では廃止されており、一般法としては行政代執行法及び国税徴収法が存在するに留まります。法律の留保の原則から、行政が強制的に行政行為の内容を実現するには、その命令を根拠づける規定のほか別途法律の根拠が必要とされており、具体的な法律を離れて行政行為に執行力が観念されるわけではありません。

附款 編集

附款とは、行政行為の効果を制限するため、行政庁の意思表示の主たる内容に付加された従たる意思表示です。条件、期限、負担、撤回権の留保の区別がなされます。

附款を利用することで、法律に違反しない限度であれば行政庁の判断により、個別具体的な事情に応じて付すことができ、画一的な行政による弊害を避けることができます。一般的には、本体たる行政行為に裁量が認められれば、その範囲で附款を付すことも許容されています。ここで、内容面でどのような附款を付けることができるかは、行政行為の根拠法令がどのような観点から、どの程度の裁量を認めているかという解釈によることとなります。

取消しと撤回 編集

行政行為が取消される場合には、行政不服申し立てや取消訴訟による争訟取消しのほか、上級行政庁や処分庁が職権で行政行為を取消す場合があります。これを職権取消しと言い、瑕疵ある行政行為について、行政庁が、その効力を遡及的に失わせて正しい法律関係を回復させることを意味します。

これと区別されるものとして撤回があり、行政行為の撤回は、行政行為の適法な成立後、公益上の理由が存在するなどの後発的な事情の変化によって当該行為を維持することが適当でなくなった場合に、これを将来的に無効とすることです。

行政行為の職権取消しについては、当該行政行為の成立に当たって原始的瑕疵が存在したところ、これを取り消して瑕疵のない法的状態を回復させるのであるから、法律による特別な根拠は不要と考えられます。

一方で、撤回については争いがあり、通説は、行政行為の合目的性の回復であり特別の法的根拠は不要としています(撤回自由の原則)が、撤回権の制限が必要と解する見解も主張されます。

また、一定の場合に、行政行為の取消し・撤回が許されない場合があるのでないかが問題とされています。一般的には、侵害的処分の取消し・撤回は、処分の名宛人に対し有利に働くので比較的自由に認めることも差し支えないと考えられますが、授益的処分の取消し・撤回は、相手方の信頼を害し、事実上不利益を及ぼすこととなるため、慎重な判断が求められるものと考えられます。そこでこの場合には、基本的に当該処分の取消し・撤回によって相手方が受ける不利益を上回るだけの必要性が認められる必要があると考えられています。

これに関しては、行政行為の無効と取消についての講座も参照してください。

(参照 w:行政行為