ここでは、条件と期限について学びます。

この講義は、民法(総則)の講座の一部です。

前回の講義は表見代理、次回の講義は時効です。

条件 編集

将来において発生するかどうか不確実な事実の成否に法律行為の効力の発生や消滅がかかっているとき、その発生不確実な事実のことを条件といいます。また、そのような特約を条件と呼ぶこともあります。

条件は、その成就によって法律行為の効力が発生するものを、条件成就まで効力が停止されていることから停止条件と言い、その成就によって法律行為の効力が消滅するものを解除条件といいます。

停止条件 編集

停止条件つき法律行為は、条件成就の時点から効力を生じ、その効力は原則として遡及しません。ただし、当事者が合意によって効力発生時期を法律行為成立以後のある時点に遡及させることも出来ます(127条1項、3項)。

また、無意味、もしくは無効な条件が付けられた場合についても規定が置かれています。まず当事者が条件とした事実が、法律行為の時点においてすでに成否が確定している場合、これを既成条件といます。条件は、本来発生不確実な事実にかかっていなければならず、その意味ではこれは条件とは呼べませんが、そのような合意をしてしまうこともあり、その場合条件成就が確定していれば条件の付されていないものとされ、条件不成就が確定していれば法律行為は無効となります(131条)。

また、条件が不法なものである場合には、法律行為は無効となります。不法な行為をしないことを条件とした場合(例えば犯罪行為をしなければお金を渡すという契約)であっても、それは当然のことであって、法律行為は無効となるものと定められています(132条)。

将来実現することが社会通念上ありえないとされるものを不能条件といい、不能条件が停止条件とされた場合には、法律行為は無効となります(133条1項)。

さらに、条件の成否が当事者の意思にかかったものである場合、その条件を随意条件といい、純粋に当事者の意思のみにかかるもの(例えば「気が向いたら」という条件)を純粋随意条件、当事者の意思によりある事実を実現する必要があるもの(例えば「家を売った時には」という条件)を単純随意条件といいます。債務者の意思のみにかかる純粋随意条件を停止条件とした場合には、そのような法律行為に法的拘束力を生じさせる意味がなく、その法律行為は無効となります(134条)。

解除条件 編集

解除条件は、条件成就の時点から効力を失い、条件成就による効力の消滅は原則として遡及しません。ただし当事者の合意により遡及するさせることも出来るのは停止条件のときと同様です(127条2項、3項)。

既成条件が解除条件とされた場合には、成就が確定していれば法律行為は無効、不成就が確定していれば法律行為は無条件となります(131条)。不法な条件を解除条件とした場合には、法律効果は無効となります(132条)。不能な条件を解除条件とした場合には、法律行為は無条件となります(133条2項)。

また、純粋随意条件を解除条件とした場合、法的拘束力は弱いもののいったんは効力が発生するという合意があるため、有効です(最判昭和35年5月19日)。

条件に親しまない行為 編集

条件が付けられると法律行為の効力が発生するかどうか分からず、不安定になります。そのため、不安定とすることが不法と考えられている行為について、これを条件に親しまない行為といい、条件をつけることが出来ないものとされています。

このようなものとして、条件をつけることが強行規定や公序良俗に反するものや、また原則として取消しや追認、解除、相殺などの単独行為(相殺については506条1項但書に明文規定があります)、手形行為(手形法1条2号(単純ナル)、12条1項ほか)があります。

強行規定や公序良俗に反するものとして、結婚や離婚、養子縁組などの身分行為が挙げられます。これらに条件をつけることを認めると、身分秩序が不安定となります。またこれらは当事者の自発的な意思によるべきものであるところ、条件をつけることで当事者の意思に反したものが強制される可能性があります。また単独行為については、元々一方の意思表示だけで効力が発生するもので、相手方にとって法律関係が不安定なものである上に、さらに条件をつけると相手方の法的地位が一層不安定なものとなるため、問題があると考えられています。

これらの行為に条件が付けられた場合には無効原因があることとなり、また条件は法律行為の合意と不可分なものであることから、原則として全部無効となります。ただし、明文の規定がある場合はそれによります。

故意による妨害 編集

条件成就により不利益を受ける側の当事者が、故意に条件の成就を妨害したときには、相手方は条件が成就したものとみなすことが出来ます(130条)。

ただし、妨害行為は信義則に反する違法なものである必要があります。また、故意とは条件の成就を妨害することとなるという認識でよく、条件成就による不利益を免れようとする意思までは必要ないとされています。

また、条件成就により利益を受けるものが、信義則に反して故意に成就させた場合にも、その不当性は故意に成就を妨害するものと変わらないと言え、130条の類推適用により条件不成就とみなすことが出来ると解されています(最判平成6年5月31日)。

期待権 編集

条件の成否が未定である場合に、法律行為の一方の当事者は条件が成就すれば利益を得るとの期待を持つこととなります。条件が成就すれば財産的価値などを持つ権利を得られるのであり、この期待も法的保護に値する利益と考えられ、条件成就についての期待権を持つものと考えられています。また、条件の成否が確定しない間の当事者の一方が持つ利益のことを条件つき権利といいます。

契約の各当事者は、条件の成否が未定の間、相手方の条件つき権利を侵害してはならないもの(128条)とされており、違反があった場合には損害賠償を請求することが出来ます。ただし、損害賠償の内容やその時期については問題となります。

また、この条件つき権利は一般の規定により、相続や譲渡などがなされ得るものとされています(129条)。

(参照 w:条件

期限 編集

将来発生することが確実な事実に法律行為の効力の発生・消滅がかかっているとき、その確実な事実を期限といいます。その旨の特約を期限と呼ぶこともあります。

期限には、その事実の発生する時期が確定している確定期限と、その事実の発生は確実なものの時期は確定できない不確定期限があります。

また、法律行為の効力発生や債務の履行時期を発生確実な事実にかからせるものと始期といい、法律行為の効力発生に関するものを停止期限、債務の履行時期に関するものを履行期限といいます。民法では、履行期限についてしか定められていません(135条1項)が、停止期限も認められています。履行期限が到来すると、法律行為から生じていた権利の行使が可能になり、停止期限が到来すると、法律行為の効力が発生します。

一方法律行為の効力消滅を発生確実な事実にかからせるものを終期といい、法律行為の効力は終期の到来時に消滅することとなります(135条2項)。

条件か期限かの判断が難しいものもありますが、出世払いでよいとして金銭が貸与された場合については、判例はこれを一般に不確定期限と解しています(大判明治43年10月31日ほか)。条件と解すると出世しなかった場合には返済しなくてよいこととなりますが、判例は、支払いがいずれはなされるものであって、出世しなかったからと言って返済しなくてよいものではないと言うのが当事者の通常の意思であると判断しています。そこで、出世して金銭の返済に十分な資力ができた時点か、あるいはそのような可能性がないとはっきりした時点で、返済の請求が出来ることとなります。

期限の利益 編集

期限の利益とは、期限が付されることによってその間に当事者が受ける利益のことをいい、民法では136条1項が、「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。」と定めており、また2項は、「期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。」と定めています。

このように、民法は一般的に期限の利益は債務者にあるものとの推定規定をおいています(136条1項)。そこで、当事者が反対の特約をした場合や、当該法律行為により反対の趣旨が明らかである場合には、推定が覆され債権者に利益があるものとなりますが、原則としては債務者に期限の利益があることとなります。

そして、期限の利益を有するものは期限の利益を放棄出来るものとされ、ただし、相手方の利益を害することは出来ないものと定められています(136条2項)。期限の利益を放棄すると、期限が到来したものと同様の効果が生じます。期限の利益の放棄は一方の意思表示のみによって可能ですが、相手方にも期限の利益がある場合には相手方の不利益を填補しなければなりません。

期限の利益の喪失 編集

また、民法では137条において、「次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。」 として債務者が破産手続開始の決定を受けたとき(同条1号)、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき(同条2号)、債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき(同条3号)、の三つの場合を定めています。このような場合には、債権者と債務者の間で信用の基礎が失われたと認められ、また債務者の財産状況が悪化していることが考えられるため債権者に期限の到来まで債権の行使を認めないとすると債権者の利益が害されることともなります。

判例では、喪失事由の発生により債権者は一方的意思表示によって期限到来と同じ効果を生じさせることが出来るとされています。ただし、1号に挙げる破産の場合には、破産法103条3項によって当然に期限が到来したものとみなされます(そのため破産の場合には137条が適用されることはありません)。

また、当事者はこれら以外の場合にも合意により期限の利益喪失について定めることができ、融資契約書などにおいて他の債権者から差押えを受けた場合や手形が不渡りとなった場合などが定められています。

期限つき権利 編集

期限つき権利について、条件つき権利と異なり明文の規定は置かれていませんが、期限は将来到来することが確実なものであり、その点で条件つき権利と同等以上の保護に値するものと考えられ、128条や129条の規定が類推適用されるものとされています。

(参照 w:期限

期間の計算 編集

期間の計算においては、まず、139条「時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。」により、時・分・秒を単位とする期間についてはその瞬間から瞬間までを計算するものとされています。

これに対して、日を単位とする期間では、140条「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」および、141条「前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。」により、午前零時からのものでない限り、初日は算入せず、末日の終了により期間が満了します。ただし、末日が日曜・祝日その他の休日の場合で、その日に取引をしない慣習がある場合には、その翌日が末日となる(142条)とされています。

また、143条により、週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は暦に従って計算し、週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了するものとされ、ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了するとしています。

なお、他の法令などによって特別に定められているとき(例えば年齢の計算は初日が算入されると定められています。年齢計算ニ間スル法律1項)や別段の合意がある場合にはそれによります。

(参照 w:期間