ここでは、弁済に関して、弁済の提供や弁済の仕方、弁済の充当、供託などについて扱います。また、受領遅滞についてもここで取り上げます。弁済の当事者に関する問題、すなわち第三者弁済や弁済による代位、債権の準占有者に対する弁済などについては次回の講座で扱います。

この講座は、民法 (債権総論)の学科の一部です。

前回の講座は債権譲渡2、次回の講座は弁済2です。

弁済とは 編集

弁済とは、債務者又は第三者が債権の内容である給付行為をし、それによって債権が消滅することです。これを履行ともいい、弁済と履行は同じことを別の観点から見たものです。弁済は債権が消滅するという点から見たものであり、弁済によって債権はその目的を達して消滅するとも説明されます。

弁済の法的性質については議論があり、これを準法律行為と考えるのが通説ですが、これを事実行為とする見解もあります。もっとも、弁済の性質を論じる必要はなく、履行として要求される行為の要件を考えれば足りるという見解も有力に主張されており、現在では弁済の性質論よりも、弁済者の意思をどう評価するかという点に関心が移りつつあるといわれています。

弁済者の意思としては、一般的に、債務を消滅させようという意思までは必要ではなく、これに対して給付行為が法律行為である場合にはその要素としての意思は必要と考えられています。一方、債務の弁済として給付行為をする意思については、その要否や内容について見解が分かれています。

弁済の提供 編集

弁済の提供とは 編集

弁済の提供とは、弁済の完了に債権者の受領その他の行為が必要な債務について、債務者としてなすべきことをすべてした上で、債権者に受領などの行為を求めることを言います。債務の弁済は、履行と同様にその準備をし、着手をし、完了することで債権が消滅するという一連のプロセスとして理解することができますが、この過程、特に完了には債権者の受領などの行為が必要となることが多くあります。ここで、債権者が受領などをしない場合に債務者がいつまでも債務を負担し、債務不履行責任を負わせられるということになれば債務者にとって酷であり、弁済の提供はこのような場合のために定められた制度です。

提供の方法 編集

弁済の提供には二つの場合があり、493条本文の場合を現実の提供、493条但書の場合を口頭の提供(あるいは言語上の提供)といいます。

現実の提供とは、債務の本旨に従って現実にされた提供です。「債務の本旨に従って」とは、契約の解釈により定まった債務の内容を弁済すべき時、場所において提供することであり、「現実に」とは、債務者としてその事情の下でなしうる限りのことをし、ただ債権者の協力がないために履行を完了できないという程度にまですべてのことをなしつくしたということであり、債権者がなすべきことが受領だけである場合には、債権者が直ちに給付を受領できるようにしなければなりません。例えばテレビの売買契約で、期日に店側が購入者の家までテレビを運ぶ債務を負っている場合には、実際にその日に購入者の家までテレビを持っていくことで現実の提供がなされたこととなります。

金銭債務の現実の提供については、その金額はその時までの利息や損害金も含めた債務の全額についてなされなければなりません。ただし債務者に債務不履行責任を負わせることが信義則に反するような場合には、一部の提供であっても提供の効力が認められることがあります。不足額がわずかである場合について現実の提供を認めた判例(元利合計154500円を提供すべきところ1360円不足していた事例。最判昭和12月15日民集14巻14号3060頁)があります。また金銭以外による提供について、金銭債務の弁済の提供として認められた判例(郵便小為替の送付の事例として大判大正8年7月15日民録25輯1331頁)があります。

口頭の提供とは、債務者が弁済の準備をしたことを債権者に通知して受領を催告することです。債務の履行について債権者の行為を要する場合と、債権者があらかじめ受領を拒む場合には、口頭の提供で弁済の提供として足りることとなります。もっとも、この両者で口頭の提供が認められる趣旨は異なり、口頭の提供の際に必要となる弁済の準備の内容はやや異なったものとされています。

債務の履行について債権者の行為を要するとは、弁済の際に債権者の行為が必要となるという意味ではなく、弁済に先立って債権者の行為が必要という意味です。弁済の提供は受領が必要な債務についてなされるものであり、ここでいう債権者の行為を受領行為と解すると、この規定はほとんど無意味なものとなってしまいます。ここでいう債権者の行為は債権者の先行的協力行為とも呼ばれ、例としては取立債務の場合があげられます。すなわち、例えばテレビの売買契約で、購入者が期日に店にテレビを取りに来ることとなっている場合、債務者である店側からすると、まず購入者が店に取りに来なければ弁済をすることができません。この場合に要求される弁済の準備は、一般に、債権者の協力があれば直ちにこれに応じて弁済を完了しうる程度のものと言われています。

また、債権者があらかじめ受領を拒んでいる場合には、現実の提供を要求することは債務者に無駄を強いることとなって合理性がなく、公平に反するため口頭の提供で足りるとされています。この場合に要求される弁済の準備は、一般に、債権者が翻意して受領しようとすれば債務者の方でこれに応じて給付を完了しうる程度のものと言われています。

効果 編集

まず、債務者は弁済の提供の時から、一切の債務不履行責任を免れます(492条)。債務不履行を理由として債務者は契約の解除をされることがなくなり、損害賠償の請求(415条)や違約金の請求(420条3項)をされることもなくなります。また担保権が設定されている場合には、その担保権の実行がなされず、抵当権の効力が抵当不動産の果実に及ぶこともありません。

これらの効果は、債権者が自己の受領遅滞を解消させるための措置を取るまで持続します(最判昭和35年10月27日民集14巻12号2733頁など)。なお、弁済の提供によって債務自体が消滅するわけではありません。

その他、弁済の提供の効果として、同時履行の抗弁(533条)の制限、約定利息の発生の停止、受領遅滞の前提となる要件の充足、供託の前提となる要件の充足があります。注意義務の軽減や増加費用の請求、危険の移転については、弁済の提供の効果か受領遅滞の効果かについて、見解が分かれています。

弁済の方法 編集

弁済の時期 編集

債務の履行(弁済)をすべき時期のことを、履行期(弁済期)といいます。なお、現に履行(弁済)をした場合、その時のことを履行時(弁済時)といい、履行期(弁済期)とは区別されるものです。

弁済期は通常契約によって決まりますが、412条において解釈規定が置かれており、確定期限のある場合には期限の到来した時(412条1項)、不確定期限のある場合には債務者が期限の到来したことを知った時(412条2項)、期限の定めのない時には、履行の請求を受けたときが弁済期となります。

弁済は弁済期に行うのが原則ですが、債務者が期限の猶予を得たり、同時履行の抗弁などを主張しうるときにはそれよりも後に履行することでよいこととなります。一方、期限の利益喪失約款がある場合には、弁済期前であっても一定の事由の発生により弁済期が到来します。弁済期に債務者が履行しない場合には履行遅滞の責任を負うことになり、債権者が受領しない場合には受領遅滞の責任を負います。

弁済の場所 編集

弁済をすべき場所についても、解釈についての規定が定められています(484条)。別段の意思表示があればそれにより、契約で明示的に合意される場合のほか、合意の解釈を経て決定される場合にはその場所となりますが、そのような合意がない場合、特定物を引き渡す債務は債権発生のときにその物が存在した場所での弁済となり、その他の債務は債権者の現在の住所において弁済することとなります(持参債務の原則)。そこで、債権が譲渡されるとその新しい債権者の住所が弁済の場所となります。

また売買代金については、引換給付を実現するため特則が定められており(574条)、その他にも個別に特則が定められています(664条、商法516条など)。

弁済の内容 編集

弁済の内容について、弁済は債務の本旨に従ったものでなければなりません。何が債務の本旨に従ったものであるかは債務の発生原因である契約又は法律の規定の解釈によって定められます。

特定物である場合については、483条において「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。」と定められており、履行期の現状で引き渡せば足りることとなります。もっとも、特定物債権の場合には、債務者は履行期まで、目的物を善良な管理者の注意をもって保存することを要します(400条)。これは善管注意義務と略称され、「自己の財産におけると同一の注意」と対置されるものです。

種類物(例えばみかん10kg)については、その品質について当事者の意思が明らかにならない場合、中等の品質のものを提供するものと定められています(401条1項)。もっとも、通常は契約の趣旨や状況などから求められている品質が判断できます。

また弁済者が他人の物を引き渡した場合について、475条、477条の規定がおかれており、原則としてその弁済は無効です。475条の意義としては、本来他人の物を引き渡した弁済者はそれを取り戻す法的根拠はないところ、弁済者は475条によって、さらに有効な弁済をすることでその物を取り戻すことができることにあります。

金銭債権については、通貨で弁済がなされます。通貨とは強制通用力を与えられた支払い手段であり、民法では、債務者は自らの選択で、各種の通貨を持って弁済をなすことができます(402条1項本分)。もっとも特種の通貨の給付を以て債権の目的としたとき(例えば1万円札で支払うことを合意した場合)はこの限りではありません(402条1項但書)。また、外国通貨で債権額を指定したときでも、債務者は履行地における為替相場に依り日本の通貨を持って弁済をなすことができます(403条)。これは通貨高権(国家の通貨発行権)によるものと考えられます。

利息を支払うべき場合において、利率に別段の意思表示がないときは年5分とされており(404条)、これは民事法定利率呼ばれます。また利息が1年以上延滞し、債権者の催告にもかかわらず支払いがなされないときは特約がなくとも、それを元本に組み入れて複利とすることができます。

弁済の費用 編集

弁済の費用については、485条において規定がおかれており、別段の意思表示があればそれによりますが、ない場合には、費用は債務者が負担します。但し債権者の行為、例えば持参債務において債権者が遠方に転居したなど、によって費用が増加した場合の増加額は債権者が負担します。

なお契約に関する費用について、売買契約について当事者双方が等しい割合で負担することを定めた558条があり、これは559条によって有償契約一般に準用されているため、有償契約においてはある費用が弁済費用か契約費用かが問題となりえます。

例えば不動産売買の際の登記費用について争いがあり、大審院の判例(大判大正7年11月1日民録24輯2103頁)ではこれを契約費用と解していると考えられますが、学説では弁済費用として売主の負担とすべきとの見解も有力です。もっとも、実際の取引では登記費用は買主の負担とするのがほぼ慣行となっています。

弁済の充当 編集

債務者が同一の債権者に対して、同種の目的を有する数個の債務を負担する場合(例えばある債権者に対して100万円の代金債務と200万円の貸金債務とを負っている場合)、あるいは一個の債務の弁済として数個の給付をなすべき場合(例えば給与の支払いが3か月遅れている場合)に、すべての債務を消滅させるに足りない給付をした場合、どれに充当するかが問題となります。

充当の順序について、まず当事者間に合意がある場合その合意によります。合意がない場合には、民法の規定により、491条1項によって費用、利息、元本の順に充当されます。費用同士や利息同士、元本同士については、まず、488条1項・3項によって債務者から債権者に対する意思表示がある場合にはそれによります。これを指定充当と言い、例えばA債権の利息とB債権の利息がある場合に、A債権の利息として10万円支払うとの債務者の意思表示です。次に、債務者が指定充当しないときは、債権者が指定できます(488条2項・3項)。ただし債権者の指定に対して、債務者が遅滞なく異議を述べると、指定はなかったものと同じ扱いとなります。そして、双方の指定がない時には、法定充当(489条)がなされます。法定充当では、弁済期にあるものとないものとではあるものに充当し(489条1号)、弁済期にあるもの・ないもの同士については、債務者のために弁済の利益の多いものから(同条2号)、さらに利益が同じ時には弁済期の早いものから(同条3号)、弁済期も同じ場合には各債務の額に応じて充当されます(同条4号)。これは、債務者の利益になるように充当するとの規定であり、弁済の利益については諸般の事情を総合判断して決められます(最判昭和29年7月16日民集8巻7号1350頁)。基本的には、例えば共に弁済期にあり、利率の高い元本と低い元本の支払い債務がある場合には、利率の高い方にまず充当されることになります。

(参照 w:弁済の充当

弁済受領者の義務 編集

弁済がなされた場合、弁済受領者の義務として二つの規定がなされています。一つは、受取証書を交付すること(486条)であり、もう一つは、債権証書がある場合に、全部の弁済を受けたときにはこれを返還すること(487条)です。

受取証書とはいわゆる領収書のことであり、その交付は弁済と同時履行の関係に立つと解するのが判例(大判昭和16年3月1日民集20巻163ページ)・通説です。そこで、債務者は受取証書が交付されないならば弁済をしないということができます。これに対して債権証書、つまり債務者が債権の成立の証として交付した借用証書などについては、これの返還を受けなくとも弁済をしたことを証明するには受取証書があれば足り、弁済と同時履行の関係には立たないものと解されています。

(参照 w:弁済

弁済供託 編集

弁済供託とは 編集

弁済供託とは、弁済者が弁済の目的物を債権者のために供託所に帰宅することによって、一方的に債権を消滅させる行為、又はその制度を言います(494条)。弁済の提供がなされると、債務者は債務不履行責任を免れますが、債務が消滅するわけではなく、債権者が自己の受領遅滞を解消させて履行を請求すれば、それに応じられる状態を維持する必要があり、目的物の保管等について義務を負い続けることとなります。そこで、債務者が債権を消滅させる方法として定められている制度が弁済供託であり、地代や家賃の供託がよく利用されています。

弁済供託は、第三者のためにする寄託契約であるというのが通説です。もっとも、供託のほとんどを占める金銭や有価証券の供託において、供託所は国家機関である法務局などであり、供託には公法的要素もあります。判例(最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁)では、弁済供託は民法上の寄託契約の性質を有するものであるが、公益上の観点から国家機関である供託官に権限を与えたとして、供託官の供託金取戻請求却下処分は行政訴訟の対象となるとしつつ、払渡請求権の時効期間については民法の規定により10年としています。

供託に適さない物、滅失・損傷のおそれがある物、保存について過分の費用を要する物について(例えば生鮮食品や家畜など)は、弁済者は裁判所の許可を得て、その物を競売に付し、その代金を供託することができます(497条)。

また供託原因は494条において規定されており、債権者の受領拒絶又は受領不能の場合と、債権者の各地不能の場合とにおいて、供託することができます。債権者の受領拒絶とは、債務者が適法に弁済の提供をしたのに債権者がその受領を拒絶した場合のほか、判例では口頭の提供をしても債権者が受領しないことが明らかなときは直ちに供託してもよい(大判明治45年7月3日民録18輯684頁など)としています。これに対して学説では、債権者に受領拒絶の態度が認められる場合には、常に、口頭の提供を必要とせず直ちに供託できるという見解も主張されます。受領不能と言い得るためには債権者の帰責事由の有無は問題とされず、債権者が不在の場合などがこれに含まれます。

債権者の確知不能とは、弁済者が過失なく債権者を確知することができないことであり(494条後段)、債権者不確知とも呼ばれます。知りえない理由には事実上のものも法律上のものも含まれます。

弁済供託の効果 編集

弁済供託がなされると、債権が消滅します(494条)。もっとも、供託者は供託した後も一定の時期まで供託物を取り戻すことが出来るため(496条)、債権の消滅の効果は不確定です。この間の法律関係としては、取戻しを解除条件として供託時に債権が消滅するものと理解する、解除条件説が通説となっています。

そして債権者は供託所に対し、供託物の交付を請求するという、供託物交付請求権を取得します。供託手続上は、被供託者の還付請求権といいます。弁済供託の制度上当然のことであり、債権者の受益の意思表示は不要です。債務者が同時履行の抗弁権を有する場合など、債権者の給付に応じる形で弁済すべき場合には、債権者はその給付をしなければ供託物を受け取ることは出来ません(498条)。

弁済者の取戻権 編集

弁済者は、一定の事由がある場合を除いて供託物を取り戻すことが出来ます(496条1項前段)。これを弁済者の取戻権、あるいは供託者の取戻請求権といいます。取戻権が行使されると、供託をしなかったものとみなされ(496条1項後段)、保証債務も復活します。

取戻しができなくなる場合としては、債権者が供託を受諾した場合(496条1項前段)、供託を有効と宣告した判決が確定した場合(496条1項前段)、供託によって質権又は抵当権が消滅したとき(496条2項)、弁済者が取戻権を放棄した場合、取り戻し請求権が時効消滅した場合があります。

供託によって、付従性により抵当権などが消滅したときに、取戻しを認めて抵当権などを復活させることとすると、第三者に不利益を及ぼす可能性があり、この場合には取戻しができないものとされています。また取戻請求権は167条1項により10年の消滅時効にかかり、その起算点は供託者が供託による免責の効果を受ける必要が消滅したときとされています(最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁)。

(参照 w:供託

代物弁済 編集

債務者が、債権者の承諾を得てその負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は弁済と同一の効力を有します(482条)。これが代物弁済であり、債務の本旨に従った履行ではないものの、債権者の承諾によって、弁済と同一の効力が認められています。代物弁済によって新たに債権が発生するわけではありません。

給付をしたことが必要であり、給付の約束をしただけでは足りません。現実の給付がなされたというためには、権利の移転に加え、第三者に対する対抗要件の具備も必要です(最判昭和39年11月26日民集18巻9号1984頁)。もっとも、不動産について、登記に必要な書類を債権者が債務者から受領した時点で代物弁済による債権消滅の効力を生じさせるという特約がある場合には、書類受領時にその効力が生じます(最判昭和43年11月19日民集22巻12号2712頁)。

(参照 w:代物弁済

受領遅滞 編集

受領遅滞の性質 編集

債務者が弁済の提供をしたのに債権者がこれを受領しない場合、債権者は遅滞の責任を負うこととなります(413条)。これを受領遅滞といい、この債権者の責任の性質については学説が分かれています。大別すると、法定責任説と債務不履行説がありますが、その内部でも見解の相違があり、また双方と異なる見解もあります。

基本的には、法定責任説は、債権者は本来権利を有するだけであって義務を負うわけではないため、受領義務はなく、受領しなくとも債務不履行となるわけではないといいます。そして、ただ誠実な債務者を救済し当事者間の公平を図る必要があるため413条は特に債権者に責任を負わせることにしたのであり、これは法定の責任であるので要件も413条に規定されていることに尽き、債権者の帰責事由は問題とならず、受領遅滞の効果は弁済の提供の効果と重なり、413条はそれを債権者の責任という面から規定したものであると考えます。

これに対して債務不履行説(債務不履行責任説)は、債権者と債務者は信義則上、給付の実現に向けて協力すべき関係にあり、債権者は一般的に受領義務を負い、受領遅滞はこの義務についての債権者の債務不履行であるといいます。そこで、413条は492条とは別に債権者の責任を認める規定であって、413条も一種の債務不履行責任であり、債権者の遅滞についても、一般の債務不履行と同様に帰責事由が必要であると考えます。

もっとも、法定責任説の立場に立つ見解も、特約があれば契約上の義務として債権者にも受領義務を認めており、また明示の特約がなくとも契約の解釈や慣習、信義則などから受領義務が生じることを認めているものが多数となっています。

受領遅滞の効果 編集

受領遅滞の効果として何が認められるかについても、上記の受領遅滞の性質についての見解により分かれています。

まず、債務者の免責、すなわち債務者が債務不履行責任を負わないこととなることについては、両説とも492条の弁済の提供の効果として認めています。

次に、債権者の受領遅滞があった後には、債務者の目的物保管についての注意義務は軽減されることとなり、また受領遅滞によって増加した費用は債権者が負担し(485条但書の趣旨より)、危険負担が債務者から債権者へと移転することとなります。これを弁済の提供の効果とするか受領遅滞の効果とするかは見解が分かれていますが、両説ともこの効果自体は認めています(帰責事由の要否は異なりますが)。

以上に対して、債務者から債権者に対する損害賠償請求や解除という債務者の積極的な債権者への責任追及については、そのような効果を認めるか否かにつき両説が対立します。法定責任説は、債権者に受領義務が認められているものではないと考えるため、受領遅滞にここまでの効果は認めないのに対し、債務不履行説は、債権者に義務違反がある以上その債務不履行として損害賠償や解除も認めています。

受領遅滞の終了 編集

受領遅滞は、当事者が合意をして新たな履行期を定めるなどしたときや、債権者が受領遅滞の効果を承認した上で改めて受領の準備をし、受領する旨を通知したとき、あるいは弁済や免除、履行不能などによって債権が消滅したときには、受領遅滞は終了することとなります。

(参照 w:受領遅滞